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こちらはカードワースのリプレイっぽい書き物置き場です。
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夏の日のお買い物
2015-12-31 Thu 23:28

  その朝。
  出かけるまでの時間つぶしに、彼女は瞑想していた。
  一見座ったまま居眠りしているような、そんな姿勢をとって、
 意識を己の内側へと伸ばす。
  そこから己の魔力を覗き込むのは、水脈を遡るのに似ている。
  体の内側、あるいは心の奥にある混沌とした源へと、
 深く、より深くへと遡っていくのだ。
  悲しい事に彼女自身の魔力はあくまで平均的で、
 父のように絶大、とは到底言えない。
  だから、日頃はさほどの時間もかけず、確認作業は終わるのだが。
  今日の彼女は瞑想したまま無意識に眉を潜めた。
 
 (これって……)

  彼女が見つけたもの。
  それは、川で例えるなら支流と言うべきか。
  自分のものではない細い流れが彼女の流れに合流している。
  厳重に閉ざされていて混じる気配はないのだが、   
 たまに飛んでくる飛沫から、伝わってくるのは蒼い海の気配。  
  ああ、彼女だ。とサラは悟った。
  
 (名前を教えたから、縁が出来ちゃった、かな)

  ブラの魔女、と呼ばれる彼女は今も海を眺めているだろうか。
  名前も知らない、おそらくは生者でもない相手との縁は、
 相手に支配される可能性を考えれば、本来は忌避するべきだ。
  でも、縁ができた以上、こちらからはどうにも出来ないし、
 きっと再会できるまで、彼女は寂しいだろうから。

 『こんにちは、今日はこれから市場でお買い物です』

  手紙を送るかのように、そんな思いを伝えれば、
 ふわりと門の向こうに小波が起こる。
  その勢いで飛び込んできた小さな小さな一粒の雫が、
 サラにいってらっしゃい、と優しく瞬いた。



************************************



 「じゃ、いってきまーす! ほら、リックいこ」
 「へいへい」

  七月も数日過ぎたある日。
  梅雨もようやく終わったのか久しぶりによく晴れた空の下、
 元気な挨拶と気のない返事を残して、幼馴染達は街へと出かけた。
  一方。

 「じゃ、私達も行きますよ!」

  そんな二人から少し距離を取りながら、
 ハーロとマリスもその後を追いかける。
  
 「姉ちゃん、やっぱこういうのよくないんじゃない?
  なんでオレらがあの二人を追いかけなきゃいけないのさ」
 「もう、娘さんに頼まれたでしょう?
  私の代わりに見守ってきてって。
  娘さんは今日は親父さんが出ているから出歩けませんし……。
  あの二人、普段はあんなに仲がいいのに街へ一緒に出かけるなんて
  買出しの荷物が多いとかそんな時だけなんですよ! いつもは」
 「うん、でも、そもそもサラ姉ちゃんは頼まれないと
  あまり買い物とか行かないじゃん。
  それに、やたらと面倒な事になるから嫌だって
  前に兄ちゃんは言ってたけど」
 「でも今日は違うでしょ。サラさんのあの嬉しそうな顔ったら!
  断言しましょう。これはきっとデートです!」
 「いつもと同じに見えるけどなあ……」
 「そ・ん・な・こ・と・あーーりません!」

  なんでかなあ、とハーロは頬を掻く。
  マリス姉ちゃんといい娘さんといい、
 女の人は他人の恋路に首突っ込むのが大好きだ。

 (ま、娘さんに奢ってもらう約束だからいいか……)

  ハーロは色々と諦める事にした。
  とはいえ、そんな彼らも

 (もうマリスさん達は見つかってるんですけどね。賑やかですし。
  さて、こちらはあの二人を目くらましにどこまで行けるか。
  まあ……親父さんから頼まれはしましたし、努力はしますが)

  と、珍しく深めの帽子を伊達メガネまでかけて
 変装しているセアルに追いかけられている事など
 知る由もないのであった。


  ***   ***   ***   ***   *** 


 「姉ちゃん……あれって本当にデートかなあ?」
 「デート、ですよ。ええ、きっと、多分……」
 「でもオレには自警団の捕り物に協力しているように見えるけど」
 「き、気のせい、です……!」

  久方ぶりの雨が上がった為か、市は人混みでごった返していた。
  おそらく先週、依頼で市場の警護をした時の数倍はいそうだ。
  もっとも、翌日から雨が続き、店を出す人も殆どいなかったのだが。

 「久しぶりの晴れだもん。ああいう連中も書き入れ時なんだろうけど」
  
  自警団員に連行されていくのはひったくりの現行犯で
 その向こうに、取り返した物を被害者へと渡すサラ達の姿が見える。

 「私達の初対面の時もそうでしたけど……」  
 「迷子でしょー、喧嘩でしょー、さっきのでしょー。
  姉ちゃん達、市場か自警団から見回りでも頼まれてるんじゃ?」

  リックの言葉の意味を痛いほど理解したハーロは、
 思わずうんうんと頷いてしまった。これは確かに付き合うのも大変だ。 
  ちなみに、セアルの目にはそれに+してスリの被害もあった。
  すられたサラの財布をリックがスリ返して渡した為、
 サラが気付かなかっただけだ。

 (通りで手馴れていたわけです)

  ここの所依頼で見せていたあの動きの原点は間違いなくこれだ。
  しかし……。

 (親父達が気にかける気持ちも分かりますけど……
  あの二人、恋仲と言うには雰囲気が、ねえ)

  身長さもあってか仲のいい兄妹にしか見えない二人に、
 セアルのやる気もどんどん削れて行く。

 「あ、いいなー。うまそー!」
 「ちょっとハーロ君、声が大きいですってば」
 
  やがて、ベンチでまるで見せびらかすかのように
 (リックは実際に見せびらかしていたのだが)
 期間限定の幟が立った屋台で買った熟成肉の串焼きをパンで挟み
 美味しそうに食べ始めた二人に、ハーロの腹の虫も鳴る。 
   
 「姉ちゃん、オレ達もご飯ー」
 「でも、あっちに行けばばれちゃいますし、他だと尾行が……」
 「えー、もういいじゃんか」

  すっかりやる気をなくしているハーロと、
 困ったようにおろおろと辺りを見回すマリス。
  そんな二人の目に、背の高い青年の姿が映る。
  朝早くから武器の手入れを頼みに出かけていたフィリオンは、
 昼食をここで済ませるつもりなのか各店を吟味していた。 

 「にいちゃーん!」

  あわあわしてるマリスをよそ目に呼びかければ、
 彼らに気付いた青年はあっさりとよってきた。
  という訳で、マリスの事は彼に押し付ける事にする。

 「姉ちゃんがさ、買い物したいらしいんだけど、
  オレ、用事思い出したんだよね。
  良かったら後、任せちゃ駄目かな?」
 「ん? まあ、別に構わないが……」
 「え、あの、ハーロ君?」
 「よかったー。それじゃ……二人ともデートごゆっくり♪」

  先ほどまで散々振り回された意趣返しなのか、
 ニヤニヤした笑顔でハーロが逃げ出す。
  後に残されたマリスの顔は最後の言葉の破壊力に真っ赤だ。
 
 (ハーロ君……あとでおかず1品追加の刑ですからね?
  ああもう、喜んでいいのか怒るべきなのか分かりません!!)

  そんな彼女を、いつものように見守っていたフィリオンだが、
 このままでは埒が明かない気がしたのだろう。
  珍しく、自分から彼女の肩を叩いた。

 「……とりあえず、食事でもとるか?」
 「は、はい」
 「食べたいものは?」
 「フィリオン様のお好きなもので!」
 「ふむ、だったら……」

  並んで屋台の流れへと足を向けてみる二人。
  後日ハーロが訊ねてみたが、浮かれすぎていたマリスは
 この時何を食べたかも、ろくに覚えていないのだった。

 (ま、こちらも帰りますかね)

  セアルも引き際を悟った。
  ハーロ達がいなくなったからだろうか?
  食事を終え、何事かを懐から出した手帳にメモしていたリックが
 さっき一瞬こちらを見た、気がする。
   
 (親父には特に異常なし、でいいでしょう)

  いくら預かっている親友の娘だからと気にしすぎだろう。
  何事か起こるにしても、既にお互い成人している以上、
 後の事は若い二人に任せるべきなのだ。

 (ま、もう面倒くさいですし)


  やがて、リックはメモ取りを終えると
 煩わしかった尾行者達がいなくなったのを確認し、
 やれやれと溜息をついた。 
  ふと視線を隣に向ければとっくに食事を終えていたサラは、
 何が楽しいのか市のあちこちを目で追って微笑んでいる。
  座っているせいか、その顔はいつもよりは年相応に見えた。
 
 「もう満足したか?」
 「うん。そっちはちゃんと味盗めた?」 
 「んー、多分な。今度作ってみる。それより、そろそろ次いくか」 
 「そうだね。本命いっちゃいましょう!」
 
 

************************************



 「……またのご来店を」 
 「はい、ありがとうございました!」

  あれこれと注文し、修正されるのを待ってしまったせいか、
 全部が終わった頃には時刻は相応に経っていた。
  夏だからまだ明るいが、冬だったら既に夕暮れになっていただろう。
  だから、二人でのんびりと宿への道を歩いていく。

 「いい品になったみたいでよかったー。
  トーリさんとさっきのおじさんに感謝しなきゃ」
 「まあ、それはそうだけど、高かったんじゃないか?
  特に刃の方。あれ、結構業物だろ?」 
 「そうなの? よく分からないけど、買える値段ではあったけど。
  割り引いてくれたのなら悪い事しちゃったかしら?」
 「……むしろお前幾ら払ったんだよ?」
 「それに関してはノーコメント」

  確かに安いとは言えない買い物だが、サラに後悔はなかった。
  元々、サラはそれ程物欲が強い方でもない。
  先日失った外套も中古の安いので済ませたから、
 暫くは欲しいものもなかった。

 「まあ、去年は何もお祝いできなかったからね。忙しかったし。
  だから今年はちゃんとしたかったんだ。……遅れちゃったけど」

  でもまあ、雨とあちらの都合だから仕方ないよね、と
 サラは先ほど受け取った包みを、リックへと渡した。  
  どうせ中身はとっくにばれているのだ。

 「とにかく、遅くなったけどプレゼント。誕生日おめでとう」
 「それ、先月にも言っただろ?」
 「こういうのは気持ちなの!」
 「ふーん、で、それで美味いものを作って食わせろ、と?」
 「そうそう。ってちがーう! ……いや、あってる」

  六月の終盤に一足早く十九歳になったリックへの
 今年のサラからの誕生日プレゼントは、新しい包丁だった。
  といってもそんじゃそこらの代物ではない。
  その刃は武器屋にして刀鍛冶でもあったトーリの亡き父が、
 年に何本か打っていた品の最後の一つ。
  柄の部分は先ほどまでリックの手に合わせて調整されている。
  そうして完成した一本の包丁はこれまでのものより
 格段に切れ味が良く、使い勝手もよさそうだ。

 「何作るかな……」

  考え込むリックにサラはこっそり笑みを浮かべた。
  一般的に東国の刀はこちらの剣より良く切れると言われているが、
 その技術をより高度に取り込んでいるのが包丁なのだとか。
  まあ、専門外なサラにはその正しい所はよく分からないが、
 先ほど試し切りしていたリックがその切れ味に目を見張っていたので
 気に入ってくれれば嬉しいなと思う。

 「ま、今度の一年もあまり怪我とかせずに楽しく過ごしてよね。
  ……生まれてきてくれてありがとう」

  思った事を素直に言葉にして、サラは今後を考える。
  次は来月のハーロの誕生日だ。
  予算はあまりないが何を贈ろうかなぁ、と考え込む彼女は、
 隣で青年が珍しい表情を浮かべたのにも気付かずに、
 未来の事に思いを馳せるのだった。


************************************

 2015年も残り30分となりました。
 こんばんは、環菜です。
 こんな時期なのに夏の話ですいません。
 覚悟がなかなか決まらないからか、
ハードな展開辛いのでちょっと寄り道です。

 喪中ゆえあけおめがいえませんので、
最後の辺りに、せめてもの思いを乗せました。
 サラさんがいい子過ぎたのが心残りですが、
これにて今年の書き納めとさせていただきます。
 来年もがんばって書きますよー。
 では、今年もお世話になりました。
 カードワース界隈に戻ってこれたのも迎えてくれた皆様のおかげです。
 皆様、お体には気をつけて、来年もよろしくお願いします。

                      環菜

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