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こちらはカードワースのリプレイっぽい書き物置き場です。
新月の塔・1
2016-02-08 Mon 22:33
シナリオ名 :新月の塔
製作者 :机庭球様
入手場所 :ギルド
*ハーロ********************************



  夕闇の中を一歩、また一歩。
  先を行く狼のジャックに導かれ、杖突き歩いてほぼ一昼夜。
  辺りが暗くなってようやく、オレはそこに辿り着いた。

 「やっとついたぁぁ!」

  ここ数日一人でいるせいか、独り言が増えてるかも。あーやだやだ。
  今、オレの目の前にあるのは塔だ。
  窓が少ないから分かりにくいが五階か六階層?はありそう。
  そうやって塔を仰ぎ見ている間に、不意に気付く。
  そう言えば、今日の空には月がない。

 「新月、か……」

  確かあいつは今日までにここへ来いと言っていたけれど、
 こんな所まであの芝居がかった男の計算通りなのだろうか?
  
 「この中に……本当にいるのかな」

  いつの間にか拳に力が篭っている。
  今から力んでどうする、とは思うけど、震えが収まらない。
  それでも、闇雲に突貫したら皆に怒られそうだから、
 一応荷物を確認しておく。
  ……オレは、多分今、生きてきた中で一番怒っている。
  今と比べたら、セアルへの怒りなんて全然大した事なかった。
  だって、ここにいる筈なんだ。
  あのいけすかない黒魔導師ジェネラスと、誘拐された皆が。
  ここに、この新月の塔に。

 (何がゲームをしましょう、だよ。
  勇者だとか英雄だとかはセアルの歌でもう飽きてるっての!)

  でも、今はあいつの望む通りにそれを演じるしかない。
  囚われた仲間を全員助けて悪役のあいつに挑む、そんな勇者の役を。

 「よし、準備OK! いこっか、ジャック」

  薬剤や使い慣れない盗賊用の道具もちゃんとあるのを確認し、
 オレと同じく誘拐を免れたジャックと顔を見合わせて頷く。
  皆の命をあいつに握られてる以上、オレが頑張るしかないんだ。
  荷物袋を背負い、武器をいつでも抜けるようにして、
 最後にサラ姉ちゃんの落としていった賢者の杖を握り締める。
   
 「皆……絶対助けるからな。待ってろよ!」

  そして、オレは塔の扉を開いた。



*リック********************************



  どこかで人の声を聞いた気がして、俺は目を覚ました。
  動こうとして、その場に倒れこむ。
  冷たくこすれる鉄鎖の戒めが不快な音を鳴らして、
 俺はようやく現状を思い出した。

 (あー……ちょっと意識失ってたのか)  

  しかし束の間に見た幻も今の状況も、最悪である事には変わらない。
  元々、ゴブリン退治を依頼されて指定の森へと出かけ、
 どうも様子がおかしかったので引き返そうとした……筈だ。
  しかしそこから先の記憶がない。
  次に気付いた時にはこの窓もない石造りの部屋で鉄の鎖に拘束され、
 ただ傷つけるだけが目的らしい暴行を受けていた。
  とはいえ、俺も盗賊の端くれだ。
  鎖だけなら開錠して逃げる事も可能か、と思ったのだが。

 (わざわざ魔法の鍵だし。鎖壊した方が早いぞこれ)

  ぼやく今この瞬間も体から汗と混じって血が滴り落ちている。
  放置してればじきに死ぬって傷ではなさそうだが、
 この暴行が繰り返されるなら、いっそその方がましかもな。  
  あー、頭がぼんやりする。
  本格的に血が足りなくなりつつあるのか?
  脳裏に浮かぶ幻は、遠く忘れかけてた記憶。
  祖父やサラと出会う前の……最悪だった時代。 
  俺はもうあの頃の無力な子供じゃないはずなのに、
 手も足も動かせない現状はあの頃と同じで。
 
 (俺がこうなってるって事は……)
 
  サラは、あいつらは無事なのか?
  音を立てぬよう、耳に注意を凝らしても
 ゴーレムの駆動音ばかりで誰の声も聞き取れない。  

 「畜生……!」

  思わず言葉を漏らした時、背後の扉が鈍い音を立てた。
  痛む体を忘れて首を向けてしまい、呻き声をあげながら、
 どうにかこうにか上半身を持ち上げてそちらを見る。 
  どうやらどこかの仕掛けと連動しているらしく、
 内側からは開けられないと諦めていたのだが。  
  アレの仲間なら、仕掛けをどうこうする必要はないはずだ。
  なら、味方……なのか。
  そうして、どれほど待たされたのか。
  壊すような勢いで扉を開け放った奴に、俺は思わず溜息をついた。

 「ちょっ兄ちゃん酷い傷……って、何その反応!
  サラ姉ちゃんのがよかったっての!?」

  いや、煩過ぎるんだよ……まあ、元気そうで何よりだ。

 「やー、違うって。とにかく急いで鎖切ってくれ。
  今の音できっとアレに気付かれた」
 「ああ、そんな事より回復が先!
  俺、監視されてるからとっくに気付かれてるし」
 「監視?」
 「ほら、あの依頼人。あいつが黒魔導師でさ。
  オレ達の事つけてて悪魔召喚の生贄にするつもりだったけど、
  運よくオレは眠らずにすんだから、今度はゲームがしたいんだって。
  全員助けてあいつを殺すまでここから出られないんだ」
 「……そりゃ、イイ趣味をお持ちで」
 『いや、それほどでも』

  ……無視だ無視。  
  手早く傷薬を使われて、随分と体が楽になる。
  それは確かにありがたいのだが。

  奥からはがちゃん、がちゃんと鉄の音。
  ジャックが警戒するように俺の足元で唸る。
  そして、散々俺をいたぶった人型のカラクリが姿を見せる。

  
 「こいつ……機甲の兵士!」
 『はは、よくご存知ですねぇ』

  どこからか響くのは、依頼人だったジェネラス氏の、
 ……いや、俺達の敵の楽しげな薀蓄話。
  ハーロも面倒な奴に見込まれたものだ。
  それにしても、思った通り動けない俺を狙う気満々だな。

 「だから鎖の方が先って言ったんだが」   
 「戦闘中に手当てする方がオレには難しいの。大体」

  兵士は空ろな視線でこちらへと武器を向ける。
  そんな中、ハーロは両手に俺の鎖を握る。おい、まさか。

 「こんな安っぽいの、壊すのに苦労しないって」

  ……その通りだった。今更ながらこいつ、規格外だな。
  普通の人間はそんな事出来ないぞ、と 
 隠していた投げナイフを引き抜きながら俺は心の中で突っ込む。
  ま、相手は所詮一体だ。
  幾ら俺が本調子ではないとはいえ、俺達の敵ではない。
  だと言うのに、ジェネラスは陽気に笑って俺達を褒めたたえる。

 「物静かな依頼人の振りして、あれが本性か」 
 
  あー、腹が立つ。自分の情けなさも含め。

 「そうだ。兄ちゃん、左手出して」  
 「なんだ? 握手でもするのか?」
 「ううん。ちょっと待ってね」

  ハーロは左手の痣に懐から取り出した絵札を貼り付ける。
  ん……こんな痣、いつ出来たんだ?
  と、札から異様な感覚が手の甲に入り込んだ。
  ぞくり、と鳥肌が立つ。

 「ハーロ?! 何が、始まるんだ?!」

  ハーロは答えずに、札に意識を集中している。
  やがて、体から何かが抜けて少し気が楽になった。
  俺は知らず知らずの間に止めていた息を吐く。
  ハーロが左手から白紙になった札を外すと、
 そこには出来ていた痣は消えていた。
 
 「実は、その痣って呪いなんだ。
  これ使わないと、あいつ殺した時に皆も道連れにされるんだよ」

  つまり、これで俺に関するゲームはクリアした事になるのか。

 「あんなのに命握られてたのかよ。きっついな」
 「本当にね。でも、リック兄ちゃんがいてよかったよ。
  これで怖いものなしだ」
 「そもそも、お前に怖いものあるのか?」

  笑って問いかけると、ハーロは情けなさそうな表情を浮かべた。

 「……今日増えたよ。罠とリドル」
 「ああ……なるほどな」

  確かに脳筋にそれはきつそうだ。
  じゃ、勇者様のお供その1としてお仕事始めますか。
  ……もうちょっとだけ、待ってろよ。サラ。



*セアル********************************



 「あー……喉がガザガザですよ、まったく……」

  部屋の隅にあった竪琴の入った荷物袋を小脇に抱え、
 悪臭漂う小部屋から、多少はましな隣の部屋へと連れ出され、
 私がまずやったのは深呼吸でした。
  正直敵に囲まれてゆっくりしてられる状況じゃないのですが、
 目覚めた時の状況が最悪だったんですよね。
  まあ、至近距離でいきなり致死性の毒ガス浴びせられたら
 誰だって混乱するとは思いますが。
  ……遅効性、つまり死ぬのに時間が掛かるものだったようですが、
 逆に言えば死ぬまであの苦しみが続くんですよ。 
  恥ずかしながら、柄にもなく悲鳴なんて上げてしまいました。
  流石に寝起きだと息を止めようとか思い当たりませんしね……。
 
 「大丈夫なの?」
 「まあ、どうにか。一曲歌いましょうか?」
 「それは宿に戻ってから」 
 『そうですねえ。これから第2ステージの始まりですし』

  依頼人、いや依頼人だった筈の男の声がどこかから聞こえてきます。
  ペットと遊んでやってくれ、と出て来るリザードマンに、
 それと共に動き始める幾らか傷ついたゴーレム達。
  どう言う事かとリックの方に視線を送ると、
 服をぼろぼろにしている彼も苦そうな笑みで答えます。
  随分と派手にやられていますね。痛かったでしょうに。

 (そういう事、ですか)

  思わず、溜息を零してしまいます。
  私も、宿を通しての依頼だからとすっかり油断していたようですね。
  あの親父の目すら誤魔化したのですから我々では、と思う反面、
 うちの面子では疑い諌める役である私達がまんまと引っかかったのは、
 プライドが傷つくというか正直かなり腹立たしい。
  
 (ましてやハーロに助けられたようですしね。
  ……いつまでも子供ではない、と言えばそうなのですが)

  鬱憤を晴らすように嬉々として武器を振り回す少年は、
 来月には宿の成人である15歳。
  背ばかり大きくなってと思う時もありますが……。

 (いつまでも、子供の頃のイメージを引きずってはいけないですね)

  そう、彼も成長して……。
 
 「ハーロ! お前、それ壊すなよ?!」
 「分かってる。でもなんかこれ、技が使いやすいんだよね!」
 
  今、敵を薙ぎ倒し突き倒している彼の武器はサラ愛用の杖。
  あれを握ってる限り、戦いでこちらの出る幕なんてないですね。
  まあ、ああいう魔法の品には特殊な手段でしか
 壊れない魔法が掛かってる筈だし、きっと大丈夫でしょう。
  ……後で怒られなければいいんですが。

 (しかし、リックさんには拷問らしくて私には毒ガスですか)

  自慢のペットをハーロが全滅させたのを、怒るというより
 むしろ喜んでいるように見える元依頼人。
  彼の戦闘力を褒めながら、どこか余裕を見せ付けています。
  あの手のタイプは厄介です……本気で、楽しんできますから。

 (そして、最終的には自分が勝てる状況を用意しないと、
  そもそも仕掛けない。やれやれ……面倒ですねぇ) 

  おそらく、今も奴に囚われている皆さんは
 こちらの動き次第では死ぬような状況でしょう。
  先ほどまでの私と同じように。

 (出来ればまた仲間を失うのは避けたいですが)

  天を仰ぎ見ても、石の塔の中ではただ暗い天井が広がるばかり。
  ま、今は情報が足りません。
  ハーロに詳しく話を聞いて、少しでも知恵を巡らすとしましょう。

続く
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