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こちらはカードワースのリプレイっぽい書き物置き場です。
新月の塔・2
2016-02-08 Mon 22:39
※ややぐろい表現がありますので想像力を使わないでお読みください。
*ハーロ********************************



 「まったく、いきなりなんだってんだよ」

  大剣を軽く振るえば、風圧で飛ぶ黒い残骸。
  思考感知型、とやらの転移魔法陣から飛んだオレ達に
 暗がりからいきなり襲い掛かってきたのは
 蟻よりはちょっと大きい程度の蜘蛛の集団だった。
  まあ、びっくりはしたけれど、これ位なら軽く蹴散らせる。
  戦い終わって軽く見回しては見たものの、
 そこは大きく真っ白な蜘蛛の巣が部屋の隅に固まっているだけの
 ただの薄暗い空き部屋で、出口すらない。

 「嫌がらせ、かなあ? びっくりしたし」
 「どうでしょう? 何かの意味はありそうですけど」

  戻ろうにも肝心の魔法陣は動かなくなっていて、
 何の為にここにとばされたかがさっぱり分からない。

 「閉じ込めたかった……とか?」
 「ん……適切な処置をすれば動きそうですよ。
  一人だと時間が掛かりますけど、三人いますし。
  ちゃんと手伝ってくださいね」
 「はーい」

  転移装置の復旧をしようとセアルが荷物を下ろしたせいか、
 その辺の小さな蜘蛛達が自分の巣へ逃げ帰っていく。
  と、辺りを見回していたリック兄ちゃんがそちらに歩み寄る。
  いや、狭い部屋なのに、駆け出すような勢い。

 「どしたの? リック兄ちゃ」

  問いかけようとして声が詰まる。なんだか様子が変だ。
  邪魔な蜘蛛の巣を切り裂くように払われるミスリルの短剣。
  オレの声が聞こえていないかのように、なんども、なんども。

 「死んではいない……いないけど……!」

  無意識なのだろう、兄ちゃんの呟きはいつになく焦った声で。
  ……やがて露になる転がっていた何か。
  両腕と足を縛られて、力なく横たわるその人は、
 よく見知った見た目の人形のようにも思えた。
 
 「サラ姉ちゃん……?」

  戒められていた縄を切られても、姉ちゃんは動かない。
  でも、まだ生きてはいる、筈だ。
  よく見ないと分からない位にか細く息をしているだけで、
 こちらの呼びかけにはまったく反応しないけど。
  慌てて灯されたランタンに照らされる中、
 顔や首周り、手足なんかの服に隠されていない部分が
 熱でもあるかのように仄かに赤い。
  いや、違う……これは斑点?
  気持ち悪いって程じゃないけど、色白だからやけに目立つ。

 (何だ? これ?)

  戸惑っているオレ達を安全とでも思ったのか、
 姉ちゃんの首元に残った巣の残骸から這い出る小蜘蛛。
  それは、サラ姉ちゃんの体を我が者顔に這い、
 思わず固まるオレの目の前で止まって。

 「っ!」

  兄ちゃんの手が、その蜘蛛を払い落とす。
  けれど、何もなかった筈のそこに、赤い点がまた一つ。

 (噛まれたんだ)

  馬鹿なオレでも、やっと理解する。
  ……姉ちゃんの、多分全身に広がる赤。
  それは、もはや数え切れない位の蜘蛛の噛み跡。

 「……」

  リック兄ちゃんが無言のまま、サラ姉ちゃんを抱き上げて、
 蜘蛛の巣から一番遠い所に横たえる。
  服の裾からぽろぽろと落ちて巣へと戻ろうとする小蜘蛛達を、
 オレは苛立ち任せに踏み潰した。  

 「セアル。薬で治せるか?」
 「跡もなく、は私では時間が掛かりますね。
  ……マリスさんに頼んだ方が早いでしょう。
  それよりも……」

  手早く解毒効果の薬を飲ませたセアルだったが、
 サラ姉ちゃんが気付く様子はない。

 「やはり……。手持ちには、毒の方を消せる薬品がありませんね」
 「え? それって大変じゃんか!」

  そこの魔法陣は、意識がないと使えないみたいだから、
 このままじゃ、姉ちゃんをこの部屋から出す事も出来ない。
  そもそもうちのメンバーには他に毒を消せる奴がいないし。
  じゃあ、どこかから連れてくる? 
  でも姉ちゃんの体力はそれまで持つのかな?
  思わず伸ばした手が触れた肌は普段よりずっと冷ややかで。

 「サラ姉ちゃん?」

  青褪めた肌に浮かぶ赤い斑模様があまりに痛々しくて
 でも、オレには何も手がなくて……見てるしかないのは胸が辛くて。
  日頃より小さく見える姿に、思わず手が伸びた。

 「ちょっと、サラ姉ちゃん? ねえ!」
 「待て待て、お前の馬鹿力で叩いたらこいつの首がもげる」  
 「いや、てかなんで兄ちゃんそんなに冷静なんだよ!?
  姉ちゃんがこんな、こんなのっ」
 「お前の方こそ少し落ち着けって。
  ここで取り乱したって上で見てる奴が喜ぶだけなんだぞ?」

  それは嫌だから、手を下ろす。
  うっかりリック兄ちゃんに八つ当たりなんて、なっさけねえ。

 「大体、これもあいつのゲームなら解決策がある筈だ。
  ……そうなんだろ?!」
 
  そう、天井に叫ぶリック兄ちゃんは
 今までにないくらい真面目な顔をしていた。
  それもそうだよね。オレだけじゃない。
  むしろ相棒の兄ちゃんの方が、姉ちゃんのこの状態は辛い筈だ。
  呼びかけに応じてか空から声が降ってくる。その声は笑っていた。

 『はははは………そうですねえ。
  出来るならもうちょっとおろおろする姿を見たかったですが。
  ま、小さな蜘蛛の弱い毒すらも沢山吸収すればこうなるって話です。
  塵も積もれば山となる、勉強になりましたね』
 「ジェネラス……!」
 『そう目くじら立てないで下さい、所詮ゲームの一環ですよ。
  解決策も、ちゃんと用意してありますしね』
 「いい加減にしろ! そう言う問題じゃねえよ!
  人の命の重みも道徳心の欠片も、お前にはないのかよ!?
  ……さっきから皆を、皆をこんな目に遭わせて……!」

  最後の方は震え声になった。
  一度教会の聖典でも読んでみればいいのに。
  馬鹿なオレでも知ってる事をどうして大人が分かっていないのか。
  でも、空から届くのは鼻で笑い飛ばした嘲りの口調で。

 『何を熱くなってるんですか?
  道徳心などあったら、こんな事しませんよ』
 「……な!」
 「ハーロ、今はその事より先にサラさんの容態でしょう」
 「世の中に腐った奴はどこにでもいるさ、珍しい事じゃない」

 『腐ってる、なんて心外ですねえ。まあ、それはさておき……
  その小さい蜘蛛は幼体に過ぎません。つまり成体がいましてね』

  ジェネラスは楽しそうに蜘蛛について語り始めた。
  ま、要するに凶暴な成体の急所に姉ちゃんの毒を消す血清がある。
  それだけ分かってれば十分だ。

 『そうそう、あの蜘蛛はハーロ君達でもかなり苦戦するでしょう。
  だから逃げても構いませんよ? 魔法陣は人にしか反応しませんし。
  まあ、血清を取れなければサラさんは動く事すら無理。
  つまり、あなたがたは逃げられない……』

  いや、と声は面白がるような響きを浮かべた。

 『もっとも、私としては逃げても構いませんけどね。
  大丈夫、今のサラさんなら痛みも感じずに
  皆さんの逃げる時間を稼いでくれますよ。餌として』

  そんな事する筈ないだろ! 多分、俺はそう叫びたかった。
  でも、それよりも先に走った、鋭い気配に振り返る。

 「餌、ねえ。あいつはむしろまな板だろ?
  食える部分なんてどこにもねえし」

  自分の言葉を面白がるように笑っているリック兄ちゃん。
  なのにその目だけは酷く剣呑な色を浮かべていて、正直怖い。

 「……そもそも食わせねえよ」

  そうだね、それにはオレも同意だ。


  
*サラ*********************************



 『少しずつあなたが近付いてくるだけでぞくぞくする……、
  ふふふ……逢うのが本当に楽しみですよ……』

  ストーカーみたいな台詞に、ハーロがうんざりした顔してる。
  どうやら私達はあの依頼人に誘拐されていたらしく、
 現状の説明を受ければ、申し訳なさを強く感じた。
  さっきまでの私は毒のせいでまったく意識がなかったらしいし……
 リーダーなのに何やってるんだろう。もっとしっかりしなきゃ。

 「薄気味悪い野郎だよ、本当」  
 「ここからは私も頑張るわ。絶対皆無事に帰るんだから!」
  
  生温くはあるけど、ようやく貰えた水が美味しい。
  さっきまで飲まされた薬とやらで口の中が嫌な味だったのだ。
  しかし、もう片方の手で拳を握る私に、セアルから待ったが入る。
 
 「これは薬師としてですが……あまり無理しないで下さい。
  本来の用量を無視して薬を飲ませたので、
  かえって体に毒になってるかもしれないですし、ましてや……」

  セアルが言いよどむ。
  用量が分からないってセアルの持ってたものじゃないの?

 「そう言えば薬って何だったの?」

  たわいない筈の問いかけに固まる周囲の男達。え、何この空気?

 「……とりあえず呪い解く方が先だろ?」
 「呪い?」
 「そうそうそうだった! 姉ちゃん手を出して」

  そうね、ここは空気を読みましょう。
  これ以上無理に聞くと色々考えたくない方向に話が行きそうだ。
  言われた通りに預けた手には、見慣れない痣と……赤い点が一杯? 
  
 「ちょっとびっくりするだろうけど、大丈夫だから」
 「うん。……それじゃ、解除の儀式をお願いね」

  ハーロが怪しげな札を私の手に貼り付けて集中する。
  ……確かに体から何かが抜ける感覚は人によっては苦手かも?
  痣が消えたのを確認し、手の平をひらひら見返す。
  赤い点の方は消えていなかった。呪いとは関係なかったか……。
  ハンカチで拭いてみようかとポケットに手を伸ばせば、
 身に覚えのない冷たい感触。
  取り出してみるとそれは銀色の鍵、そして……。
 
 (蜘蛛?)
      
  ポケットにいたらしい、私の腕を黒い粒のような蜘蛛が這っている。
  さっきの巨大蜘蛛に比べれば、小さなただの蜘蛛だ。
  なのに、払い落とす事もできなくて、鳥肌と共に体が固まる。
  怖いとか、そんな訳じゃないのに……どうして?
 
 (ダッテコノ感触ヲ私ハ知ッテイルカラ)

  分かった。点の正体が。
  指が皮膚を打つ鋭い音を、どこか他人事のように聞く。
  皆が驚いたようにこちらを見ているけど気にしていられない。
  生きているのか、死んでいるのか、落ちた蜘蛛の行方も確かめず
 私は赤い点だらけの手で顔を覆った。
  ……冒険者が蜘蛛に遭う事なんてよくある事だ。

 (引きずらないようにしないと……これ) 
  
  そう、分かってはいるけれど、暫く震えが止まらなかった。


  ***   ***   ***   ***   *** 


 「そっちはいい?」
 「いつでもな」
 「じゃ、いくわよー!」 

  いっせーのー、と声が重なって聞こえる。
  今、私とリックはこの階の端と端にいるけれど、
 近くに安置されたオーブの力で、連絡を取り合う事が出来る。
  と言うか、そういうのがないとやってられない。
  マリスの眠っている部屋に行くには、
 こことあちらにあるスイッチを同時に押すしかないんだもの。
  飢えたミノタウロスがマリスを食べてしまう前に、
 なんとか助けに入らないと。


 「「せ!」」

  それまで何度試しても硬く動かなかったスイッチが
 軽い音と共に降りた。
  廊下のかなり先で扉が開く音が届く。
  後は扉で待機しているハーロ達の手腕を信じるしかない。
  勿論、私も今から全力で加勢に入る。大丈夫、やれる。

 「始まったね! 私達も急ぐわよ!」
 「……無理すんなよ?」
 「大丈夫大丈夫!」 

  うっかり動揺を見せてから、皆がやけに優しい。
  そんな必要ないのに。
  一度だけ文句を言うとセアル曰く、

 「50なのか70なのか、あるいは案外10程度なのか、
  どの位の毒を受けているかはっきりと分からないのに、 
  100の効果を持つ血清を使わざるを得ませんでしたから。
  差し引きがどう体に影響するか分かりませんし、
  出来るだけ安静にして欲しいのが本音ですね」

  との事。
  なのに何故走る方に回されたかと言えば、
 ミノタウロスの攻撃を受けるよりはスイッチ係の方が安全、という
 やや不本意な理由だった。
  いやまあ、肉弾戦は確かに苦手だけど。
  ミノタウロスのマリスへの攻撃を受け流したり出来るのは、
 今の面子ではハーロ位だろう。
  でも、私は足の速さには自信がある。

 (全力で走って援護しよう)

  だってこんなに元気だし……なんて思ったのに。

 (え?)

  まさかの一歩目で転んだ、と気付いたのは倒れた後で。
  普通、転ぶにしても兆候みたいなものがある筈なのに、
 何もなかった事に焦る。
  膝が痛い。顔も、ついでに情けなさすぎて心も痛い。
  確かにここ数日毒にやられていたとは聞いている。
  自分の体力が仲間に比べれば少ない事も分かっている。
  ほんのちょっとだけ辛いなって思ってたのもこの際認めよう。

 (でも、まだ頑張れる、筈だったのに……)

  こうまで自分は弱っていただろうか?
  見下ろせば腕にも、足にも蜘蛛に噛まれた赤い点。
  なんで、こんな目にあわなきゃいけないのかなって、
 ふとそんな弱音が頭を過ぎった。 
  もういっそ、このまま寝転んでいる?
  きっと、それでも叱られはしないと思う。

 「でもそれは、駄目だね……」

  杖に縋るようにして、どうにかこうにか立ち上がる。
  そんな事したら、きっともう起き上がれない。
  情けなすぎて皆に合わせる顔もない。
  仲間のピンチに、こんな所で寝転んでいていい筈がない。
  そう、私の足は早いのだ。
  魔術師らしくはない特技だけど、出来る事をやるしかない。  
  まあ、そんな気分で走って、運良くリックと同着だったけど……。

 「……はぁ、はぁ、はぁ……」
 「お前さ……戦う為の体力は残しておけよな?」
 「うぅ……へいき、だってば」
 
  私はいささか情けない姿でミノタウロス戦に乱入。
  どうにかこうにかマリスを救い出す事に成功したのだった。


続く
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