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ヒバリ村の救出劇(中編) 語り:フィリオン
2010-05-13 Thu 18:27
 探索は続いた。
 右の通路の先にいたのは、扉に手を伸ばすようにして倒れた一匹のゴブリン。
 その背には、ハーロでも容易くは抜けないほど強い力で斧が刺さっていた。
 少なくとも、彼らを襲ったのは恐るべき力の持ち主らしい。
 火薬庫。そう書かれて施錠されていた扉をリックがこじ開けてみたが、
 流石にそこにマリアという少女の姿はなかった。
 ネズミが壺に捕まっていたので助けたが、それだけだ。
 奥に隠された部屋はどうやら彼らの宝物庫のようで、
 幾つかの薬品やスクロールが入手できたものの、
 いつもなら喜ぶそれも今日は小さな溜息が生まれただけ。

「余計な時間、かけたかしらね」

 元の四辻に戻って、次は奥への道を選ぶ。
 その間、誰もが無言だった。皆、緊張している。
 我々が受けたのはゴブリンから少女を奪還するものだった筈だが、
 人に害なす存在とはいえこうなっては哀れみを感じてしまうし、
 何より、その犯人は今もこの坑道にいるかもしれないのだ。
 歩き続ける一行の姿に慌てたのか鼠達が逃げ回る。
 その中の一匹は緑色で細くて長いもの…ゴブリンの指を銜えていた。

「このまま行くと少し広くなりそうだけど…」
 
 リックが壁に張り付くようにして、先を覗きこむ。
 小さく、息を呑む音。

「また、なの?」

 サラが恐る恐る問いかける。

「さっきほどじゃないんだけどな…」

 奥に倒れている緑の巨体はホブゴブリン。
 胸をありえないほど激しく凹ませて倒れている。
 戦おうとしていたのだろう、つるはしをその両手に握ったままだ。
 それにあれは。
  
「…人間だ」
  
 それは変わり果てた中年男性の遺体だった。 
 よく日に焼けて、鍛えられた体をしている。
 だが、それは戦う為に作られたものではない。
 日々の日常を生き抜く為の、ただそれだけのものだ。
 恐らくは、働き者だったのだろう。
 けれど、今は片腕を失い、かっと目を見開いて己の血だまりに沈んでいる。

「誘拐された子のお父さんだよね、この人…」
「そうね。他に今日ここに来た人がいるとは思えないし」
「ええ、まず間違いないでしょう」

 セアルが彼のつけている首飾りを指差した。
 素人目には美しい青い輝石が嵌っている。

「この首飾り…色は違うけどさっきのジニィさんのものと同じです。
 …結婚指輪の代わりって所ですかね?…貰っておきます?」
「皆が構わないならあのお母さんに届けてあげましょう?
 …形見って事になるだろうし」

 それに反対するものはいなかった。
 短い祈りの言葉と共に、故人の目を閉じさせてやる。

「もし、ここにまっすぐ来ていれば助けられたでしょうか…?」
「状態を見る限りそれはありえませんよ。
 亡くなったのは恐らく我々が宿で起こされた頃でしょう」 

 恐らく、片腕を奪われたのが致命傷だろう。
 血の跡がぽたぽたと奥の方に続いている。

「別の所で攻撃されて、ここまで来て倒れた…と考えるのが自然だな」
「自分で助けになんて来なきゃよかったのに」

 ハーロがポツリと呟く。

「群れてるゴブリンに素人さんがかなう訳ないじゃん。
 村にはオレ達がいたじゃないか。さっさと頼ってくれればよかったんだ」
「…それが親心というものじゃないですか?」
「でもさ、後に遺される子供の寂しさは半端ないよ」

 彼の親も冒険者で、依頼に失敗して戻ってこなかった。
 だから、親に先立たれている気持ちはよく分かるのだ、と言う。

「…そこまで思ってくれる方がいるのはきっと素敵な事なのだと思います」

 そういうマリスは物心つく頃には故郷の島の孤児院にいたと聞いている。
 家族の記憶を持たない彼女を慈しんだのは神の教えとシスターや仲間達だ。
 それが、リューンでも孤児院を手伝う原動力となっているのだろう。
 
「……」

 血の匂いのする中で不思議な沈黙の漂う空間。
 サラが何かを言おうとして言えずに口ごもった。
 彼らに比べれば、片親とはいえ溺愛されている彼女は恵まれている方だ。
 同じように、私も何も言えなかった。
 家名を汚したと勘当された私の為に、親族が命をかける事はない。

「まあ、そういうこと考えるのは後だ後。
 さっさと子供助けてこの人の無念晴らした方がいいだろ」

 リックの建設的な意見に安堵したのは私だけではない筈だ。

「依頼を続けよう」

 今は議論すべき時ではない。
 幼子の無事こそが、亡き人への何よりの手向けになるだろうから。

 
************************************
 

「開かないね…」
「鍵はかかってないんだがな」

 奥の扉の前で、我々は立ち往生していた。
 何かがいる気配はするが、入る事が出来ないのだ。

「どこかに仕掛けがあるのでしょうか?」
「合言葉なんかの可能性もありますよ」
「そうね。あるとすれば奥…かな。ここまでは特に何もなかった筈だし」

 まっすぐな通路を奥へ奥へと進んでいく。

「足元注意しろよ。ここから下ってるから」
「了解。なんか邪魔ね、この岩」

 通路の途中に2m級の岩が転がっていて少し細くなっている。
 更に奥には似たようなものが幾つも転がっているが、ここは下り坂だ。
 誰かがわざわざ押し上げたのだろうか?

「ん?」
「どうしたのよ、リック」
「いや、ここの岩の表面がなんか…ちょっと明かり頼む」

 私には凸凹したただの石にしか見えないそれ。
 たまった土埃を払うと、その凹凸にある種の規則性が見えてくる。

「これは…文字?」  
「彼らの言語、ですかね。でも、誰かゴブリン語読めますか?」

 当然皆が首を振った。
 そもそも、ゴブリンと仲良くできるなんて聞いた事がない。 
 ぽんっとリックが手を打つ。

「サラ、親父さんに貰ったものにスクロールがなかったか?《解読》の」
「それだ!ちょっと待ってね」

 サラが自分の荷物袋を探る。
 程なくして取り出されたのは古びた巻物だった。
 ぎっしりと魔術文字の並んだそれを、彼女は岩に向かって掲げた。 
 
「キーワードキーワード…《学ぶは幸いなり……」

 読み上げられた魔術文字の一つ一つに小さな光が灯る。
 それは次第にちらちらと揺らめく炎となり、
 己に託された魔力を解放させながら燃え尽きていく。

「……我、ここに新たな叡智を得る》」

 詠唱完了と共に巻物から解放された魔力がサラの内に消える。
 一方巻物の方は、文字が燃えた箇所が虫が食われたようになった。 
 その部分をナイフで切り捨てて、また丸めてしまいこむ。
 
「うん。読めるわ。不思議な感じね、これ。えーっと…ここが最初かな?」

 サラは自分の目線より少し高い位置の文章を読み上げた。

 『あめのひだ
  きようかられんとがもじを
  おしえてくれる

  おもつたことお
  このいわにかいていこう 』

「…もしかしてこれ、ただの日記?」
「いや、とりあえず読みましょう。死ぬ直前の事まで書いてるかも」
「うん…」

 けれど、その後もずっとそんな調子だった。
 尊敬しているらしいゴブリンシャーマンのレントと、
 トッチというペットのネズミとの話題が多い。
 が、レントは入り口近くの広場で死んでいたゴブリンシャーマンであろうし、
 トッチは我々が火薬庫で逃がしたネズミであろう。
 唯一参考になりそうなのはわずか一日だけ。

 『さいきんはにつきのひまがない
  あいつのせいだ
  あいつがもりにあらわれたせいで
  いそがしいのにごはんがすくない』

「あいつって何だろう?」
「ゴブリンが敵視する危険な相手である事は間違いないでしょう」
「もうすぐ効果切れちゃうけど…他に何か書いてないかな?」

 見える範囲は読み終わったのだろう。
 サラが爪先立ちしながら、石の上を覗き込もうとする。
 が、彼女の身長よりもその背の方が高い。 
 業を煮やした彼女は、その角に足をかけよじ登ろうとした。
 瞬間、石はぐらっと動く。

「危ない!」

 咄嗟に飛び降りた彼女を残し、石が下り坂をごろごろと転がっていく。
 直後、強烈な破砕音と共にもうもうと砂埃が立ち込めた。
 服の袖で目と喉を覆っても、自然と涙が溢れてくる。
 口を開こうとすれば咳が出て、落ち着くまで誰も話せない。
 ようやくそれが収まった頃、坂の上からてくてくと一つの影が降りてきた。

「ふぅ、あれに巻き込まれたらひとたまりもありませんでしたね」
「セアル…お前、いつの間に逃げてたんだよ。一人だけ」
「危ないなって思った時に。いやぁ、つい驚きまして」
「ずりぃなぁ」

 他の誰もが多少しゃがれた声にも関わらず、一人涼しい声だ。

「でも、本当に驚いたわ…」
「サラさん、怪我などはありませんか?」
「大丈夫よ。ありがとう、マリス」
「サラ…お前太ったんじゃねえの?」
「うっさい」
「そもそもスカートであんなとこ上ろうとするなよな、見えるぞ」
「よ、余計にうっさーい!」
「なんだ、気付いてなっっう…いたた、杖で殴るな、杖で」
「あ、ごめーん。土煙で見えなくて。
 まあ、収まった事だし奥を調べるわよ、奥を」 

 連れ立って坂を下りていく皆を追いかけようとして、ふと立ち止まる。
 奥へと進む姿は四人。最後の一人の足音がない。  
 振り向くと、セアルは天井と地面を見比べ首を傾げている。

「ああ、すいません。少し考え事をしていまして」
「考え事?」 
「少なくとも日記はそれなりの長さでした。
 随分と長く、岩はあるべき場所にあったのでしょう。
 そんなものが、彼女がちょっと体重をかけたくらいで動きますかね?」
「つまり?」
「いえ、特に結論は出ていません。ただ、妙に気になったんですよ」 

 そのまま、二人して皆と合流する。 
 奥に行けば、また別の何かが分かるかもと期待していた。
 しかし…。
  
「結局、何も見つからなかったわね…」
「岩を崩してもしかけなどなし。クリスタルと落盤の被害者の遺骨を掘り当てただけ、と」
「お財布とか、本当に貰ってきてよかったのかな…」
「姉ちゃん気にしすぎ。後でお墓作って埋めてあげる資金だと思ってればいいよ。
 どうがんばっても死人はお金を使えないんだから」

 皆でぶつくさいいながら先ほどの扉の前に戻る。
 ごんっと扉を叩くと、中から意味の分からない奇声が響く。
 
「はじめからこうすればよかったのかな」
「そうかもね。まあ、あくまで阻むなら…」

 全員が武器を構えた。

「強行突破するまでよ」

 扉が壊れて使い物にならなくなるまで、三分も掛からなかった。


************************************


 扉を壊し中に入ると、部屋には三匹のゴブリンがいた。
 今の我々にはそう苦戦もしない相手だ。
 軽く蹴散らし、部屋の中を見渡す。
 まず目に付いたのが空っぽの巨大な釜だった。
 台所らしく、貯蔵用の瓶がたくさん置いてある。
 片側の壁にはよく乾いた薪用の柴が多く積み上げてあった。

「ここにもいないのですか?」 

 誰もが落胆を隠せない。
 ゴブリンが立て篭もっていた以上、
 この部屋には何かあると踏んでいたのだが…。

「…ここまで来て見つからなかった以上、結論は一つです」
「セアル。何か分かったの?」
「きっと彼女は既にかまゆでで食べられたに違いありません」
「え?!」

 慌てたハーロが鍋を覗き込もうとする。
 周囲の空気が変わった。落胆から呆れを経て上を向く。
 
「いや、冗談でしょ。流石にそれはないって分かるわよ。
 この部屋にはそんな血の跡もないし、薪に火もついてないし」
「まあ、お湯も張られてない鍋でかまゆでは無理」
「いたぁぁーー!!」
「「は?!」」

 ハーロの大声に全員が鍋に駆け寄る。
 上から覗き込まなければ見えない底に、最初に見えたのは赤い頭巾。
 その下からちらちらと金の髪が見え隠れしていた。 
 怯えたように縮こまり、頭巾ごしに耳をふさいで震えているけれど。
 女の子だ……紛れもなく生きている。

「もう大丈夫ですよ。私達は貴方を助けにきたの」

 皆に目配せされたサラが優しく声をかける。
 弾かれたように、子供が顔を上げた。
 血の気の引いた白い頬に泣きはらして充血した真っ赤な目。
 確か九歳と聞いている。
 そんな子供がどれほどの恐怖に一人で耐えていたのか。
 
「ヒバリ村の村長さんと、あなたのお母さんに頼まれて」
「……おかあさん?」
「そう。お母さん。とっても心配していたわ。早く帰りましょう」 
「手を伸ばして。そうそう」
 
 二人がかりで子供の体を大鍋の中から引き上げる。

「歩ける?どこか痛い所はない?」

 マリスが地面に片膝をついた。
 マリアと視線の高さを合わせる為だ。

「うん。だいじょうぶ。ほら」 

 小さな体が、軽く飛び跳ねてみせる。
 
「ここで何が起きたか、分かりますか?」
「…ローブ着たごぶりんさんが、あたしを見てすごく怒ったの。
 ここで本に何かを書いて、箱にいれてた」
「あった。この箱だな。ちょっと開けてみる」
「お願い。それからマリアちゃんはどうしたの?」
「ごぶりんさん達が何かの用意してたの。
 そしたら外で凄い音がして、叫び声がして…
 皆でていったからとっさにこの中に隠れたの。あとは分かんない」

 恐らく、今立て篭もっていたのと最初に部屋にいたゴブリンは別だったのだろう。
 だからこそ、少女の不在を誰も気にしなかったのだと考えられる、が…。
 この子の年齢を考えれば驚くほどしっかりとした観察力と判断力だ。
 村長も言っていた。好奇心旺盛だが聡明な良い子だ、と。
 だが、彼女の次の言葉は我々の想像を超えていた。

「ねえ、おとうさんは?」

 小さな手がぎゅっとサラの外套を掴む。
 誰もが、一瞬言葉に詰まった。
 けれど隠し通したりは出来ない事に気付く。
 我々は彼の遺骸を片付けたりはしていない。
 今からどんなに足掻いても、彼の死は隠せない。

「…亡くなりました」
「……うん、わたしのせい」

 意外なほどあっさりと、彼女はそれを受け入れた。
 その表情は静かだった。まだよく分かっていないのかもしれない。

「知っていたの?」
「こえ、きこえたの。まりあ!って。…でも、でも、きてくれなかった」

 まってたのに。呟いた少女の顔がぐしゃりとゆがむ。
 マリスがマリアの体を優しく抱きしめた。
 いいのよ、と言うように背中をぽんぽんと叩く。
 小さな部屋に響く子供の泣き声は、それから暫く途切れる事がなかった。
 

************************************


 マリアの涙が落ち着くまで暫く掛かった。
 マリスが少女の手を引き、来た道をてくてくと戻る。
 途中の広場で彼女は父の亡骸と直面した。
 彼女は泣かなかった。ただ、小さく呟いただけ。

「おとうさん…」
「あとで埋葬してあげます。でも、今は貴方を無事に帰すほうが先です」

 ぽっかりと開いた入り口から外の様子が見える。
 地平線が明るくなっていた。

「そろそろ夜明けだね」 

 柔らかい色に染まった空に一同の緊張が緩む。
 ゴブリンシャーマンの日記を《解読》した結果色々な事が分かった。
 岩日記であいつと呼ばれていたのは森の悪魔だと言う事。
 太陽の光と炎に致命的に弱い事。
 恐ろしい再生能力を持っている事。

「太陽に弱くて再生…ヴァンパイア?」
「いや、それにしてはここの死体、血を抜かれた跡がありませんでしたよ」

 マリアが落ち着くのを待つ間、我々は敵の正体を話し合った。
 吸血鬼にしてはやり方が荒っぽい。どの死体も激しく損壊されている。
 大体これまでの手がかりを見る限り、力の強いものであると考えるべきだ。
 だが、経験不足である我々に心当たりはない。
 ただ、夜の森が危険なら朝を待って村へと帰りたい、という意見に落ち着いた。
 この洞窟の中で比較的血の匂いの薄い、入り口で夜明けを待つ。
 リックが外を見張る中、マリスとハーロはマリアの相手をしている。
 セアルはゴブリンシャーマンが残した地図を見ていたし、
 サラはネズミ捕りのネズミを逃がしてやっていた。 
 が、そんな時間も長くは続かなかった。

「何か来た!」

 まだまだ暗い森の向こうから、ゴブリンが走ってきた。 
 わずか二匹だったが、その姿を見てマリアが尻餅をつく。  
 平気そうに見えていたが、先ほどの恐怖を思い出したのか。
 彼女を守るように、我々は入り口を塞いだ。
 こちらのそんな姿に戸惑うように、ゴブリン達の足が止まる。
 ジャックが何かに気付いたかのように吼えた。

 そして。

 驚くほど俊敏に彼らの背後から飛び出した巨大な影が、
 二匹の頭を掴み、握り潰した。
 追われていたのだ。彼らは。森の悪魔に。
 5mはあるであろう、廃坑の天井に頭が着いてしまいそうな巨体。
 ゴブリンよりも汚れた苔むした岩石色の肌。
 こちらを見たその顔には、醜悪な笑みが浮かぶ。
 それはまるで、獲物を見つけた獰猛な肉食獣のような…。

「トロールです!」

 いつも飄々としたセアルが声に焦りを浮かべる。 

「逃げましょう、我々のかなう相手じゃありませんよ!」
「マリアちゃん!」

 腰が抜けている少女をマリスが抱えあげようとする。

「私が担ごう」

 それより先に担ぎ上げた。女性では体力が持たない。

「しっかり捕まっていろ。絶対に手を放すな」
「う、うん」
「大丈夫、守るから」

 ぶっきらぼうな物言いしか出来ない自分に腹が立つ。
 安心させる軽口でもいえればいいものを。 

「こっちです!」

 地図を片手にセアルが先導する。
 通路を奥へと走ると、小さな広場に出た。
 マリアの父が倒れていた場所だ。
 しかし、さっきとは違って奥へは曲がらなかった。
 そのまままっすぐに、探索していない道へと踏み入れる。 

「これは賭けですよ…」

 左へ、右へ、曲がり角を曲がる。
 幸いその先の扉はすんなりと開いた。
 全員が飛び込み扉を閉める。
 ズシン、ズシン、と足音が近づいてくる。
 その奥にはまた扉。しかも、何度取っ手を押しても動かない。
 入ってきた貧相な扉の向こうからはメキ、メキっと
 今にも割れそうな音が響いているというのに、
 進むべき道には鍵がかかっていた。 

「俺、この状況で開けられる自信ねえよ!」  
「壊そう!」

 全員が武器を構え、道を塞ぐ扉へと殺到する。
 しかし、周りの壁すらも打ち砕いてトロールも部屋に飛び込んでくる。
 とっさにマリアを庇った。

「《眠れ》!」

 トロールが足元を揺らす。
 待ちかまえていたかのように襲い掛かるサラの会心の魔法。
 それは、確かに奴を捕らえたように見えた。
 しかしそれもほんの束の間。

「き、きいて…ない?どうして?!」

 確かに今、奴の動きは止まったのだが。
 サラが杖を握り締める。もう一度眠らせるつもりか。
 しかし、それより早くトロールが飛び掛かる。
 狙われたのはリックだった。
 鋭い爪が彼の腕を切り裂き、そのまま捻り切ろうとする。
 悲鳴に割り込んだのはジャックの吼え猛る声。
 そのまま鋭い牙でトロールの足に噛み付いた。

「でかしたジャック!」 
 
 腱を噛み千切ったのか、トロールの姿勢が崩れた。
 誰がやったのかと巨人は警戒したように動かない。
 その隙にリックは攻撃範囲から離れ、
 すばやく駆け寄ったマリスが彼の傷を癒す。
 
「これで、どうだ!!」

 ハーロが渾身の力で拾ったつるはしを振るう。 
 頑丈な扉が粉々に砕け散った。

「皆!逃げるわよ!」

 同じような部屋の扉を潜り、直線通路を走り抜ける。

 落盤でもあったのか、巨大な石が落ちていた。
 ふと、似たようなものをさっき見たのを思い出す。
 奥の通路の日記の書かれていた岩だ。
 幸い、トロールに追いつかれる前にその脇を潜り抜ける事が出来た。
 奴の巨体では、この隙間を潜るのは難しい。
 荒くなる息を押さえ、懸命に走り続ける。

「出口だ!」

 そこは先ほどまで我々がいた場所だった。
 あの道は廃坑内を一周するルートだったのだ。
 東雲色の空が、どうにか逃げ延びた私達を迎えてくれる。

「フィリオン、急いで!」

 気がつけば皆より遅れ気味になっていた。
 元々仲間達の中では私とマリスが特に足が遅い。
 ましてや、今の私はマリアを抱えている。

「フィリオン様!」 

 悲鳴のような声と共に聞こえて来る風切り音。
 自分でもどうしてそう判断したのか分からない。
 が、とっさにマリアを放り投げ、自分も跳躍した。

 その瞬間。

 衝撃に息が止まった。
 背後から飛んできた何かが私の体に当たったのだと、
 ごろごろと地面を転がりながら妙に冷静な感覚で思う。

(ああ…そうか…)

 日記の書かれた石や逃亡時に邪魔だった巨大な石。
 どうしてそこにあるのか、妙な違和感があった。
 だが、今なら分かる。あれはトロールが投げたものだったのだ。
 苦悶のあまり吐き出した唾には血が混じっている。
 痛みを堪え、どうにか起き上がろうとするも体が動かない。 

(マリアは?)

 辛うじて動く頭で確認したい光景を探す。  
 …いた。特に怪我はしていなそうだ。
 放り投げたのも柔らかな下草の生えている場所。

(よかった)

 わんわん泣いている彼女を慰めたかったが、もうこの体は動けない。
 それでも、生きていてくれている事に安堵する。

(ちゃんと、守れた)

 大きく息をつく度に全身に激痛が走る。
 心臓が鼓動する度に目の前が暗さを増していく。
 大地を通じてドシンドシンと何かがこちらに近づいてくる振動を感じる。
 
「……ぁ…」

 早く逃げろといいたかったのに、掠れたようなうめき声しか出なかった。
 まあ、あのお人よしな仲間達なら、マリアの事は助けてくれる。
 私は助からなかったとしても、きっと。
 
(叶うなら、最期まで騎士として)

 懸命に手を動かして、目の前に転がった剣を手に取る。
 この結末は、王の剣になれなかった私の小さな自己満足かもしれないけれど、
 せめて、弱き者の盾として終わりたい。
 でも…。

(……悪くなかったな、冒険者も)

 そして、目の前が真っ暗になった。 


続く
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