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碧海の都アレトゥーザ(2)
2010-06-07 Mon 00:54
シナリオ名 :碧海の都アレトゥーザ
製作者 :Mart様
入手場所 :Vector
 
 静謐な空間に、その本を閉じる音は大きく響いた。
 表紙のタイトルは『創世神話』。
 ただし、世界ではない。このアレトゥーザの街の、である。

「もう読破されたんですか?」
「うん。私のは薄いし絵や地図が多いしね」

 賢者の塔アレトゥーザ支部の図書室を、サラとセアルは訪れている。
 分厚いアレトゥーザの歴史書や政治経済の本に埋まったセアルの向かいで、
 サラは地理や文化についての本を読んでいた。

「ねえ、蒼の洞窟ってどんな場所かセアルは知ってる?」
「そうですね。一度見た事がありますが、とても綺麗な場所ですよ」
「ふーん……ちょっと行ってみようと思うんだけど、いいかな」
「今からでは帰りが遅くなりませんか?」
「うん。でも、見てみたいから」
「まあ、お好きにどうぞ。私は……」

 セアルはチラッと部屋の片隅を見た。
 片眼鏡をかけた美しいが酷薄そうな男がそこで魔術書を読んでいる。
 セアルのぶしつけな視線にも動じる姿勢を見せない。

「あと数冊ですし、もう暫く読んでいきますよ。
 二度も三度もあの魔術師殿の許可を貰うのは、お互いに煩わしいですしね」
「はーい。じゃあ、また夜にね」

 真面目な性格である彼女は、図書館の中を走りはしなかった。
 しかし、部屋を出た途端遠ざかるスピードが速くなる。

『あ、ごめんなさーい!』

 暫くして外から、そんな声が聞こえてきた。
 思わず漏らした溜息は、そこの魔術師とどっちが早かっただろうか。
 
「…彼女が、本当に魔術師なんですか?」
「まあ、知的好奇心旺盛な方でして……」

 セアルはとりあえず笑って誤魔化しておいた。


************************************


「……かくして、この地域の聖北教徒は、
 聖海教徒として新たな一歩を踏み出したのです」
 
  穏やかそうな顔つきの司祭の前に並んだ観光客達が、
 おー、と声を上げながら拍手をした。
 観光客達が次の地へと移動すると、残っていたのは一人の少年。
 司祭はおや、と思う。つい最近見た事のある顔だった。
 すぐに先日マリスを連れてきた冒険者の一人だと気付く。
 自己紹介もした。確か名前は……。

「ハーロ君、でしたね。マリスさんは朝に見たきりですよ?」
「姉ちゃんは今日も島の方に泊まるって。だからその…観光に。皆別行動で」
「ああ、そうでしたか。……今の、分かりましたか?」
「ま、まあ、なんとなく」

 そう言いながら彼は視線をそらす。
 どんな言葉より雄弁に目の前の少年の理解度を察知した司祭は、
 小さな子に教える教師のように、より分かりやすい言葉を探した。

「簡単に言えば、列聖された聖人の数が違うのですよ。
 聖北教会と聖海教会の違いというのは。主や教義に違いがある訳ではありません」
「あ、そういう事なんだ……ですか。ちょっと安心した……しました。
 一応オレは聖北教徒だから、だから、その……」

 慣れない敬語にハーロはあたふたとしている。
 それでも司祭は彼の言いたい事を汲み取る事が出来た。
 ハーロと同じような事を不安に思う観光客が、
 毎日のようにその事を訊ねてくるからだ。
 
「我々は仲のいい双子の兄弟のようなものです。
 教義の違いで互いを疎んだりする事はありません。
 だから……この教会に足を踏み入れた事で天罰なんて落ちませんよ」

 安堵の溜息をつくハーロの姿を微笑ましそうに目を細めた司祭は、
 敬虔なこの少年へ祝福の言葉を授けたのだった。


************************************
 
 
 また一艘、大きな帆船がアレトゥーザから旅立っていく。
 それと入れ替わるように小さな漁船が港の隅へと入っていった。  
 港はある程度住み分けがされているようで、
 立派な桟橋のある方には大きめの帆船が数多く見られた。
 そちらを歩いているのは主に水夫達と商人、観光客と思える人々だ。
 
 一方反対側を見てみればそちらには漁船が並んでいる。
 漁業は観光や貿易に並ぶこのアレトゥーザでも重要な産業の一つだ。
 貿易船側の絵のような風景とは裏腹に、こちらに並ぶ船は貧相で小さい。
 けれど、そこで生活する人々の生き生きした姿は見ていて飽きない物だった。
 端に小さな市が開かれ、漁師と買い物に来た主婦が喧々囂々と言い合っている。
 そんな生活観溢れる光景の中にフィリオンは仲間のリックを見つけた。
 
 
 
「…の値段はいくらなんでも暴利じゃないか」
「そう言われてもね、そうでもしないとやってけないんだよ」
「むむ、じゃあそっちのカゴとその貝や蟹もつけてくれよ。
 今日は天気がいいからな、さくさく売れないと痛むだろ?」
「やれやれ。商売上手なお兄さんだねぇ。仕方ない、特別だよ」
 
 フィリオンが眺めている間に商談は成立したようだった。
 漁師の妻と思わしき露店の主はいそいそと魚を袋詰めし始める。
 と、こちらの視線に気付いていたのか、リックの方から声をかけてきた。
 
「なんだ、フィリオンも港に来てたのか」
「……何をしている?」
「宿のラウラさんに頼まれて買出し。レシピを教わる代わりにな。お前は?」
「船を見ていた」
「ふーん、にしても高いんだな。こっちの方の海産物は。正直驚いた。
 ラウラさんが何度も食材探しを頼んでくるのも仕方がない気がするよ」
「いやいや、これは仕方ないんだよ」
 
 会話に入ってきた露店の主は、魚介類を包んだ袋をリックに手渡した。
 そして、大げさなまでに手を広げ、お手上げのポーズをしてみせる。
 
「うちはユーレカ産の産地直送、品質に偽りなしが売りなんだが、
 ここの所ちっとも魚がとれなくてね。
 どうも沖にある海底火山の爆発で海流に影響が出たらしいんだ。
 だから暫くの間多少値が上がるのは許しておくれ、兄さん達」
「あれ、海老が入ってるぞ。おばちゃん」
「おまけさね。ユーレカの甲殻類は本当に美味しいんだよ。
 気に入ったら今度は買っておくれ」
「ありがとな。じゃ、これ」
 
 チャリンと高い音を立て、銀貨が支払われた。
 
「毎度あり、またおいで」



「フィリオンも帰るのか?」
「ああ」

 そう頷きながら、彼は港の方から視線を外そうとはしない。

「さっきからずっと港を気にしているけど国の船でも来てんのかよ」
「いや。私の国の船はこちらには滅多にこない。
 ここよりずっと西の国で……フォルトゥーナと縁が深いから」
「フォルトゥーナ……ああ、アレトゥーザのライバル…だっけ?」

 フィリオンにしては長い台詞だと思いつつ、リックは頭の中で地図帳を開いた。
 うろ覚えだがフォルトゥーナがアレトゥーザより西にあるのは覚えている。
 確か、このアレトゥーザと同じように海洋貿易の拠点だった筈だ。

「そうだな。両国はあまり仲がよくない」

 青年はは静かに頷いた。
 アレトゥーザとフォルトゥーナは長年の間お互いの隙を伺っている。
 もしも、その均衡を崩す何かがあれば、新たに戦争が起きる可能性すらあった。
 
「このアレトゥーザ港を我が国の船が使うのは年に1、2度といった所か。
 フォルトゥーナへの義理があるとはいえ、故郷の小ささを感じてな。
 我が国の中ではリューンは世界の果ての荒野に等しかった。だが、現実は…」

 フィリオンがリューンの街で見聞きしたものは、世界でも有数の交易都市の賑やかさ。
 外交の施設こそ置いてはいるもの、故郷とリューンの絆はあまりにも細い。

「まあ、そうやって黄昏るのは止めないけどさ。
 お前は技とか覚えないのかよ。居合い切りとか使えそうな気がするけど。
 すっかり物見遊山になってるけど、一応自分達の技を磨く為の旅なんだぜ?」

 隣の青年に問われ、フィリオンはじっと己の手を見つめた。
 彼の左手首には腕輪か何かの細い痕がある。
 どういう訳か、その部分だけ日に焼けていないのだ。

「技か。……国では、武器に魔力を込める技を使ってたが…」
「魔法剣?」
「このあたりではそう呼ばれているな。
 だが、それに関してもこちらの方が洗練されている。
 故郷では、特殊なアイテムがなければそういった技は使えない。
 なのに…この大陸では同じ技を何の触媒もなしに教えていて驚いた」

 フィリオンの故郷では、その技術は国外に出してはいけないものだった。
 なのに、国の外にはそれと同等かそれ以上の技が当たり前のように存在している。
 その事がどうもフィリオンには引っかかりを感じるらしい。

「得意だったなら覚えてみれば? 俺達、戦力的にまだまだ弱いんだし。
 いつか故郷に戻るなら、道場でも開いて教えればいいじゃん。
 お前、先生には向いてると思うよ」

 リックにしてみれば彼なりの励ましだろうから、
 フィリオンも苦い笑みを浮かべるしかない。
 彼は、己が故郷を出た経緯を、まだ仲間達には教えていないのだし。

「そうだな……そうするのも悪くないな」
 

************************************


 男は今日も獲物に逃げられた。

「まーた逃げやがった、あのあばずれ!」

 酔って濁った目を爛々とぎらつかせ、握っていた石を荒々しく投げ捨てる。 
 ぼちゃんという音と共に水飛沫が男にかかった。
 その水滴すら自分を嘲笑っているような気がして、男は余計に憤る。
 男は敬虔な聖海教徒だ。
 少なくとも自分ではそう思い込んでいる。
 安酒による酩酊の中では、彼は教会の代理人だった。
 弱いものを虐げているのでは、自分を正義だと偽る事が出来ないから、
 聖地を蝕む魔女を倒す…酒よりも何よりもそんな自分に酔っている。

(教会の代わりに魔女を追い出そうとして何が悪い?
 むしろ褒められるべきじゃねえか!)

 なのに獲物はいつもあっさり逃げるのだ。
 きっと何か悪しき術を使っているに違いない。

「あっのあまぁ! このやろ! このやろ! このやろぉぉ!」

 転がっている石を拾っては海の彼方に投げ捨てる。

「……ん? あれは?」

 もう夕刻近いというのに、小船が波間を漂っていた。 
 旅人らしい装束を着た若い女が、蒼の洞窟へと慣れない手つきで櫂を操っている。
 髪色は違えど、逃げた女房と同じ三つ編みの髪型が、彼の癇に障った。

「そうか!」

 男は唐突に閃いた。
 あの女も魔女なのだ。蒼の洞窟の魔女とつるんで悪の儀式を始めるに違いない!!
 酔った頭の生み出したストーリーは、彼の頭の中で虚構から現実へと作り変えられていく。

「させるもんか」

 ここで彼が止めなければアレトゥーザは海の底に沈んでしまうのだ。

「そんな事、絶対にさせるものか……!」

 彼方からの狂おしい視線に気付かないまま、人影は蒼の洞窟へと入っていった。


************************************


「普通の洞窟に思えるけど…」

 洞窟の入り口で頭を打たない為に小さくなりながら、
 懸命に櫂をこいできたのに、とサラは残念に思う。
 入り口付近からでは、どこが青いのか暗くてよく分からない。
 それでも、せっかくここまできたんだし、と彼女は奥へと船を進める。

 ある一線を越えた時、変化は訪れた。

 入り口から差し込む光の中では気付かなかった輝きが、辺りを満たしていく。
 サラの船を取り巻く海の水がエメラルドグリーンに染まった。

「な、なにが起きたの?」

 左を、右を、そして、何かに気付いたように背後を見る。
 たった今通ってきた筈の、普通の洞窟にしか見えなかった入り口が輝いていた。
 差し込んでくる太陽の光に、サラの胸は震えた。  
 その輝きが海の水を神々しいまでの碧に染めているのだと気付いたからだ。
 
「かつてこの地でニンフのアレトゥーザが……」

 創世神話の一文を思い出し、納得する。
 これだけの美しさなら、神話の舞台となっていても無理はない。
 というより、自然の力だけでこれほどの光景が生まれる事のほうが信じられない。
 ゆらゆらと揺らめき輝く水面と、それを映しだす洞窟の天井に包まれていると
 自分が海の中の生き物になったような、そんな錯覚にとらわれる。
 と、その輝きが急に翳った。

「お前、魔女だな」

 妙に濁った声が反響しながらサラの耳に届いた。
 逆光で顔が見えないが声と背格好からして小柄な男が、
 出口を塞ぐかのように、船を巧みに操っている。

「魔女だよな」

 強い口調で言い放つ男。
 この場にアレトゥーザが地元であるマリスがいたなら、
 この問いかけの意味にも気付く事が出来たかもしれない。
 リックやセアルなら上手くはぐらかしたし、
 フィリオンやハーロが居れば多少の荒事も平気だろう。
 いや、そもそも誰かがいたなら男が声をかける事もなかった筈だ。
 けれど、実際にここにいたのはサラだけだ。
 彼女は女の魔術師で、ついでに他人の悪意には事のほか疎かった。 

(魔女…まあそうよね。確かに私ってそうかも…)
 
 男はサラが一瞬考え込むのを肯定の意味と受け取った。
 とっさにそれを避けられたのは、持ち前の運動神経と冒険者としての勘だろう。 
 数秒前まで彼女の体があった場所を、男の投げた石つぶてが通り過ぎた。
 しかし、彼女の足元は大地ではない。
 小さな船の上だ。当然揺れる。
 海に慣れていないサラは落ちないようにバランスをとるのが精一杯だ。
 男はその隙を見逃さず、自分の船を彼女の船に突っ込ませた。  

「死ね! 人に仇なす魔女め!!」 
「きゃあ!」

 上がったのは妙に可愛らしい悲鳴。
 彼女の船が横転し、その体は海の中へと消えた。
 浮かび上がった所を袋叩きにしてやろうと、男は櫂を構える。
 しかし、彼女は二度と、彼の前に現れる事はなかった。



 蒼の洞窟のずっと奥にその空間はあった。
 どれほど海が荒れようと、どれほど潮が満ちようと、
 この聖域を海水が侵すことはない。
 そして今、その場所に一人の女性が佇んでいた。
 目を伏せ、何かを祈りながら、ただその時が来るのを待っている。

 と。

 顔を上げた彼女の前で、繭が割れるかのように海水が膨れ上がった。
 水は、目の前の女性に捧げるかのように、携えたそれを差し出す。
 それは、たった今海に飲み込まれた筈のサラの姿だった。 

『………。……』
「ありがとう。頼みを聞いてくれて」
『……、…………。……』

 女性は少女の体を受け取ると、首筋に触れて脈を確かめる。
 そして、安堵したように微笑みを浮かべ、一つ頷いた。 



************************************



「………ぅっ……」
「ワウッ!」

 小さな呻き声と共にサラが目を覚ました
 それに気付いた狼のジャックが犬のような鳴き声をあげる。
 サラがぼんやりとしたまま、その毛皮を撫でると、
 ジャックはくんくん言いながら鼻を擦り寄せてきた。 
 天井では古びたランプがゆらゆらと揺れている。
 それは彼女にとってここ数日のうちに見慣れた光景だった。
 なぜか全身に普段使わない筋肉まで使ったようなかったるさが残っている。
 けれど、そもそもどうしてパジャマでベッドに寝かされているのか……。
 なかなかサラの思考はまとまらない。
 と、コンコンとノックの音がして、返事をするより先に扉が開かれた。
 ジャックが扉に駆け寄って甘えた声で鳴く。

「お、目が覚めたのか」
「リック…?……ここ、どこ?」
「どこって……宿のお前らの部屋に決まってるだろ?
 まあ、目が覚めたなら酒場に来いよ。皆心配してるから」

 それだけ言うと扉が閉ざされた。
 
「心配…かけたっけ?」
「バウッ!」

 サラの独り言に応じたジャックの鳴き声は、
 少なくとも私は心配しましたよ、とでも言うようだった。  

 

 サラは見苦しくない程度に格好を整えて酒場に向かった。
 いつの間にか随分と夜は更けていて、客は泥酔した酔っ払いがいるだけだ。
 それでも仲間達は全員起きていて、サラは心配という言葉を実感する。
 
「姉ちゃん、もう大丈夫?」
「どこか痛んだり気持ちが悪いところはありますか?」
「うーん。妙に疲れてるかなぁ。けど、多分大丈夫…と思う」
「それはよかった」
「体がきついのは仕方ないですね。海で溺れたんですから」
「溺れた? 私が?」

 サラの目が大きく開かれた。   

「覚えていないんですか?じゃあ、あの女性の事も?」
「女性?」
「レナータさん、でしたか。貴女を助けてくれた人ですよ」

 何でも、あまりにサラの帰りが遅いので
 探しに行こうとしていた所に出くわした、との事だった。
 レナータの住んでいる所では溺れた少女へ最低限の介抱しか出来ない為に
 懇意にしている悠久の風亭に彼女を預けようと考えていたそうだ。 
 
「うー…覚えてない…」 
「けっ、大方怪しい術で騙されたんじゃねえの」

 近くで話を聞いていた見知らぬ酔っ払いが割り込む。
 彼が煽ろうとした酒を、ラウラがひったくった。

「レナータちゃんを悪く言う人に出す酒はないよ」
「そ、そんなぁ。皆言ってる事じゃないですか。ラウラさぁん」
「五月蝿いね。あの子は私の命の恩人なんだ。
 あんないい娘を魔女だなんて言う奴の方がおかしいよ!」

 酔っ払いはラウラに一喝され、マスターに店を追い出された。  
 けれど、サラはそんな所を見ていない。

「魔女? 魔女、魔女……」
「ん?」
「サラ姉ちゃん?」
「そうよ、そうだわ。私、蒼の洞窟で変な男に襲われて……」  
「襲われた、ですか?」

 まだ多少混乱しているのか、たどたどしく説明するサラ。

『死ね! 人に仇なす魔女め!!』

 脳裏に蘇る醜く歪んだ声。
 衝撃と共に浮いた体が、南方とはいえ春の冷たい水に包まれた。
 頭上にはゆらゆらと輝く水面。けれど、そこに戻るには濡れた服が枷のように重たい。
 蒼い世界に包まれながら懸命に手を伸ばして……そこで彼女の意識は途切れている。

「後は分からないわ。何かを聞いた気もするんだけど……」
「サラ……お前、カナヅチだったっけ?」
「失礼ね、ちゃんと泳げるわよ。一緒に川で遊んだでしょ」

 じゃれ合いに割り込むように、ラウラが溜め息をつく。

「そう……だからレナータちゃん、あんなに辛そうに……」
「巻き込んじまったと責任感じてたんだろうなぁ。真面目だし」

 力なく顔を伏せる妻を労わるように、マスターが肩を抱く。
 彼女も甘えるようにそっと身を寄せた。
 声が大きく厳つい顔つきの彼が美しいラウラと結ばれたのは、
 いまだにこの宿の七不思議となっているが、
 二人が強い愛で結ばれているのはこの様子を見れば一目瞭然だ。 

「えーもしもし? 仲がよろしいのは大変結構ですが、
 よかったらこっちにも事情を話してもらえないですかね?」

 やや呆れた声でセアルは頬を掻いた。 



************************************



「蒼の洞窟にはね、レナータって言う娘が住んでいるんだ」 

 ラウラを囲むようにサラ達は陣取った。
 マスターは汚れ物の片付けに専念しながらも、時々こちらの様子を伺っている。

「さっきサラ姉ちゃんを連れてきた人だよね」
「どんな人? 私見てないんだけど」
「簡単に言うと神秘的な美人だな。淡い金髪にここの海みたいな色の目で」
「年はサラちゃんよりちょっと上くらいでね、物静かな優しい子さ」
「でも、何でそんな人が魔女呼ばわりされてるんです?」

 サラ以外の仲間は先ほど垣間見た娘の姿を思い出す。
 物静かな表情と穏やかな口調で、とても人に嫌悪されるタイプではない。

「馬鹿馬鹿しい話だけど……、あの子が精霊術師だからだよ。
 あの子は人に水の精霊術を教えて生計を立ててるんだ」

 セアルがぽんと膝を打った。

「なるほど…人は己には自由に扱えない力を恐れるものですからね」
「ああ。とはいえ、ちょっと前まではそこまで酷くなかったんだ。
 この街付近ではどういう訳か精霊の見える子供が生まれやすいからね。
 だが…数ヶ月ほど前に来た新しい司教が精霊術を嫌っておられて…。
 その為に今は精霊術師への弾圧が激しくなってるのさ」
「聖北関連の教えでは、精霊は宗教戦争で負けた神々の名残だとも言われる。
 だから保守的な上層部は精霊術師を嫌っている事が多い、らしい」
「そうなのか? フィリオン」
「昔の知り合いの話だ。この国の司教がそうかは分からん」
「まあ、精霊術師にそれとない嫌がらせが増えてるのは確かさ。
 うちにいた精霊術師達も多くはリューンや近隣諸国に流れたよ。
 何にも悪い事はしてなかったのに……」

 そのまま、誰もが無言になった。
 この場にいるほんの数人の理解で、世の中が変わったりはしない。
 やりきれない現実を痛感する。
 突然、バンッとサラが机を叩いた。

「だからっておかしいよ。同じ人間じゃない!」

 サラは、ヒバリ村でトロールと対峙した事がある。
 震えながらも敵の気を引く為に魔法の矢を放った時、
 こちらを睨み付けた相手から感じた殺気には純粋に恐ろしさを感じた。
 けれど、今日のあの男から感じた気配は少し違った。
 どろどろとしたヘドロのようにまとわりつく禍々しさ。
 どうして赤の他人にそんな感情を向けられるのか、
 サラには分からない。分かりたくもない。
  
「まあ、私らの話はここで終わり。
 レナータちゃんの事は私達も気をつけておくから心配要らないよ。
 あの子には昔、精霊術で命を救われた恩があるからね。
 あんた達、明日にはアレトゥーザを立つんだろう?」
「あ、はい…依頼、引き受けちゃいましたから」

 それは、このアレトゥーザへの道を教えてくれた商人デオタトからの依頼だった。
 つい先日リューンから戻ったばかりだという彼なのに、
 今度は東方の珍しい香料を届けに行きたいらしい。
 だからこそマリスはしばしの別れの挨拶も兼ねて孤児院に行っている。
 そして、サラは帰りが遅くなるのを承知で蒼の洞窟へ向かったのだ。
 
「だったら、今日はもう忘れて休んだ方がいい。
 疲れを残して仕事に向かうのはプロじゃないからな」
「でも、このまま見てみぬ振りなんて……。
 そりゃ、顔もあわせてませんけど一応命の恩人らしいですし…
 そもそも挨拶すらせずに立ち去っていいんでしょうか?」

 サラの顔は苦渋に満ちていてこのままではとても寝付けそうになかった。
 さっき聞いた話のショックもあるだろう。
 酒でも飲ませて無理に寝かしつける手もあるが、悪夢でも見てしまいそうだ。 
 マスターはそう思い、暫く考え込んだ。

「…そうだな。なら…今後君がこの街を訪れている時、
 レナータが困っていたら君の手で助けてやってくれないか?」


************************************


 翌日。
 朝早く戻ってきたマリスと合流し、一行はリューンへの帰路につく。
 途中、最初に海を見た高台に立ち寄った。

「ここからの眺めが好きなんだよ」

 デオタトの言葉に、皆がしばし足を止めた。
 見下ろすアレトゥーザの街も、海も、先日とあまり変わっていない。
 けれど、サラの瞳にはどこか違って映る。

(次にここに来る時は、もっと強くなってるかなぁ)

 自分は誰かを助ける事が出来るだろうか?
 いや、そうならないと駄目だ、と頷く。
 サラは決意を新たに……

「おーい、置いてくぞ」
「え、あれ? ちょ、ちょっと待ってよー!」

 いつの間にか歩き始めていた皆を追ってその場を後にしたのだった。  



************************************


シナリオ名 :碧海の都アレトゥーザ
製作者 :Mart様
入手場所 :Vector


依頼料:+537SP(デオタトの依頼と食材探し)
合計所持金:5009SP


という訳でアレトゥーザ続いてしまいました。
一度外に出てまた入ったって感じです。
宿代は食材探しで相殺したのだと思ってください。
なお、今回、殆どの部分がオリジナルです。
蒼の洞窟に行っても突き落とされたりしませんし、
港で海産物買いに行ったりは出来ませんので予めご了承ください。
今回の流れは、また5レベルくらいになった頃には
アレトゥーザに来るのでその為の伏線、のつもりです。
そこまでいたれるようにがんばりたいなと思います。
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