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武闘都市エラン
2010-07-21 Wed 00:30
シナリオ名 :武闘都市エラン
製作者 :飛魚様
入手場所 :ギルド(作者様のページはこちら

 大柄な体にエプロンをつけた女将が、注文していた大皿を運んできた。
 どんっと置かれたそれには揚げ物を中心にした大雑把な料理が並んでいる。
 サービスだといって出されたのはサラダ…というより野菜の千切り。
 最後に固そうなパンをバスケットごと置いていくと、
 彼女は別の客に大ジョッキのエールを持っていった。

「いただきまーす!」

 ハーロが真っ先に手を出した。
 単に食いしん坊というべきかもしれないが、
 育ち盛りな彼はとにかく食べれる時に食べる。

「なんか……大味だな。客商売なのに」
「お酒のほうに力を入れているみたいですよ。
 それと……言葉には注意された方がいいかも……」

 視線に促された先、厨房にかけられたフランベルジュ。
 入り口傍の柱の傷の原因を察し、一同はなんとなく無口になった。



 サラ達が今いるのは、街道沿いにある小さな村だ。
 そこには、村の規模の割には新しく大きめの宿があった。
 近くに大きな都市があり、そこへ行く人々がよく通る為、らしい。
 そして、その分ほんの少しお高い。
 
「また軽くなっちゃったなぁ……」

 天井の灯火が淡く照らす中、サラが手にした財布を軽く振った。
 小さくチャリチャリという音が余計に哀愁をそそる。 

「それにしてもお金って、本当にあっさりなくなるものよね」
「5000sp程度じゃそんなものですよ。難しい技能ほど受講料も高いです。
 ましてや皆さんまだまだ技術を覚えなきゃいけない段階ですし」

 全てを悟っていたかのように、セアルは持ち込んだ自前の薬草茶を啜っている。 
 女将が少し嫌そうな顔をしているが、お酒を頼むのも控えたい状況なので仕方ない。

「すまない」
「フィリオン様は悪くないです、新しい技でより心強くなりましたよ」
「そうね、そこは必要な出費だったわ。むしろ……」

 サラがじとーっとした視線をある方向に向ける。

「……なぜそこで俺を見る」
「予定が狂ったのはリックが勝手に使っちゃったからでしょ」
「勝手とは人聞きの悪い。元冒険者が色々即席料理の作り方を教えてくれてな。
 あ、それに幾つか野外で食事作る際に便利な道具も譲ってもらったぞ」
「でもレシピに1400枚もの大金使ったのに変わりはないじゃない」

 また始まった、仲間の誰もがそんな目で二人を見つめている。
 ここ数日、その時の話題になるとこうなるのだ。
 そして、最後はいつも……。

「……あー、なんだかもう料理する気が失せてきちまったなー」
「う……それは卑怯だわ!」
「ふん、悔しかったら料理の腕で俺に勝ってみろ」
「お、おのれー……人の気も知らないで……」

 念の為にいっておくが、サラは別に料理の腕が下手だったり味覚音痴だったりはしない。
 ただ、趣味と実益を兼ねて食堂で働いていたリックのほうが圧倒的に経験で勝るのだ。

「大体、お前だってついこの前新しい魔法覚えただろ」
「あ、あれは冒険者にとって大事な魔法なの!」
「俺のだってそうだ。旅先で餓えるのは辛」
「ごちそうさま」
「あれ、今日は珍しく早……い……」
「妙に無口だと思ったら……やられた」

 二人が喧嘩している間に、机の上に並んでいた料理が殆どなくなっていた。
 ちゃっかりと自分の食事は確保しつつ、 
(これが痴話喧嘩に対して言ったなら面白かったんですけどね) 
 などとセアルは考えていたが、言葉には出さない。
  
「ちょっと、これ皆の分なのよ。んー……追加注文……しちゃう?」
「いや、後で厨房借りて保存食の余りで何か作るよ……金ないんだし」
「私のもおねがーい。あ、外で待ってるジャックの分も」
「へいへい。分かってるって」
「お金は大事ですねぇ……ところで次の都市でちょっと当てがあるんですが、やってみますか?」
「依頼ですか?」
「いえいえ、伝統行事の類ですね。危険がないわけではないですが。
 参加して勝てれば賞金がもらえます」
「へえ、いいじゃんいいじゃん、面白そう」
「まあ、旅費も乏しくなってきたしね……。
 じゃ、明日はセアルの当てを当たってみますか」

 それにしても、とサラは思う。
(この先の街に、そんな伝統行事がある街、あったかな……?)



 ……翌日。
 セアルに登録などを任せてしまったサラ達は剣闘士になっていた。
 訪れた街の名は武闘都市エラン。
 歴史ある闘技場を中心とした血気溢れる者達の野望溢れる都市である。


************************************


「どーしてこうなったのかしら……」
「いいじゃん。オレこういう派手なの大好き♪」
「あの、観客の皆さん、何だか怒ってませんか……?」
「あれは単なる野次ですから。気にするだけ無駄ですよ」
「サラはいい加減に気持ちを切り替えろよ」
「分かってるわよ。あとできっちり説明してもらうけどね」

 エランでの戦いはいくつかの種類に分かれている。
 1対1のシングルス。
 2対2のダブルス。
 そして、サラ達も登録した6対6のチームマッチだ。
 初戦の相手はグリーングリーンというチーム名のゴブリン達。
 名前に関してはゴブリンの体色は基本的には緑色なのでその為だと思われる。
 もっとも、なぜか一匹だけ紫色で、更に言えばこの紫ゴブリンが曲者だった。
 ゴブリンロードやゴブリンシャーマンもいる中でリーダー格を張るだけあって
 倒した敵は回復するし、眠りの雲で仲間を眠らせても起こしてしまう。
 その度にキング! キング! と観衆が喜びの声を上げた。

「あの紫うざったいなぁ。またシャーマン起き上がらせた」 
「ようするに、あれからまずは倒せばいいのよ。
 そうすれば回復されずにすむわ。全員で、集中攻撃!」

 指示を出す気合の入った声と共にサラの手から【魔法の矢】が放たれた。
 ハーロやリックの攻撃が更に畳み掛ける。
 
 「ジャック君、あの紫に噛み付いてくださいね」 

 呪歌の旋律に促され、ジャックも矢の様に突進していく。
 日頃の犬のような態度とはまったく違い、野生の本能のまま牙を向いた。
 ただ……。

「いや、それは普通のゴブリンですってば。ま、いいですけど」

 セアルの知る呪歌では、こちらの味方をさせる事は出来ても
 残念ながらどれを攻撃するかまで伝えきれない。
 紫は少しふらふらであと一押し、といった所なのだが。
 まあ、いいか。と、胸中でもう一度繰り返す。

「相変わらずいい場面を持っていきますねぇ。彼」

 フィリオンの剣が紅蓮の業火に包まれ紫ゴブリンを切り倒す。
 が、ゴブリン達もそのままでは終われない。
 ロードやシャーマンは賢者の杖を握り折る勢いで集中し、
 ホブゴブリンはマリスへと襲い掛かる。
 前衛は全員キングの傍にいて、その勢いを止められるものは誰もいない。

「きゃっ…!」

 傷を負いながらも、彼女はホブゴブリンを指差す。
  
《主よ、力をお貸しください》

 祈りの言葉と共に、その指先に光が宿った。
 不浄な生物では見るだけで苦しむであろう圧倒的な聖なる力が、
 マリスの指に集い、サラが使う【魔法の矢】とよく似た光線となって放たれる。
 それは使ったマリス自身が驚くほどの威力で、ホブゴブリンを吹き飛ばした。
 この魔法は【聖なる矢】と呼ばれている。
 アレトゥーザを旅立つ前、エステルがマリスへと餞別として与えたもので
 多くの聖海教徒に護身用として愛用されている。
 一方、思いがけない反撃を受けていきり立つホブゴブリン。
 しかし、彼は自分の背に影が迫っている事に気付いていなかった。

「マリス姉ちゃんを苛めるな!」

 一撃と共にホブゴブリンが崩れ落ちる。
 ハーロはその大剣の腹で、思いっきり頭を殴りつけたのだ。
 サラが額の汗を拭った。

「ふぅ。これで、大体決まったかな?」 
  
 再度唱えられた【眠りの雲】がゴブリン達を夢の世界に誘っていた。
 そうして眠らせてしまえば、あとは手馴れたものだ。
 前衛達が一匹一匹確実に、戦闘能力を奪っていく。
 こうして、サラ達は無事に一戦目を勝利した。
 

************************************


 数時間後、サラ達は街の外で野宿の準備をしていた。
 すごしやすい気候になったからか、町の宿は挑戦者と観光客で大繁盛で、
 休憩ならともかく、一泊するには今日は部屋が足りないらしい。
 かといって、別の街に行くわけにもいかない。
 今日の戦いはあくまでテストだ。もう一試合勝利しないと、賞金はもらえない。
 知り合ってからはや半年、共に冒険者として過ごした彼らは、
 てきぱきと慣れた手つきで野宿の準備を済ませる。
 そうして夕闇も落ちた頃、焚き火を囲んでのんびりと、
 一行はリックの作った料理に舌鼓を打っていた。
 
「サラさん、具合でも悪いんじゃ……」

 スプーンを握るサラの手がまた止まっているのを見て、マリスが声をかけてきた。
 今日はサラの好きなシチューなのに、あまり食事が進んでいない。

「ほんとだ。姉ちゃんどうしたのさ、今日のもおいしいよ?」

 既に3皿目を半ばほど攻略したハーロが言うだけに説得力がある。

「ああ、そういう訳じゃないのよ、大丈夫大丈夫」
「単にさっきの事でもやもやしてて食が進まないだけだろ」
「さっきの事……サラさん、もしかしてまだ怒ってます?」
「怒ってるって訳じゃないわ、でも……」
 
 サラが気にしてるのは闘技場への登録を自分達に説明なく行われたからだ。
 確かにセアルに任せっきりにしたのも落ち度ではあるのだが、
 最初に一言あってしかるべきだろう、とその目は口以上に雄弁に語っている。

「だって、サラさんこういうの嫌がりそうじゃないですか」
「それは……確かに好きじゃないけど」

 セアルには昨日の時点でその事がはっきりと分かっていた。
 元々、地図を見たり移動先の話を一番聞きたがるのはサラなのだ。
 そんな彼女がどうして次の大きな街がどんな街なのか覚えていなかったのか。
 つまり、コロシアムで有名な街、と聞いても全く興味が沸かなかったからだろう。
 何せ……あのハーロですら、エランと聞けばこうなる事を予測していたし。

「大事なんですよ、戦闘経験を積むのは」

 観念したかのように、セアルは食事を切り上げた。
 物覚えの悪い生徒に諭すかのように、指を折りながら答える。

「技を覚えたばかりじゃ、それが強いのか、自分達のパーティに向いてるか、
 またお互いの技を踏まえての連携のタイミングを得る事が出来ません。
 冒険者に必要なのは呼吸を合わせる事……つまりはチームワークです。
 依頼でいきなり戦闘する時に果たしてそれが出来ているでしょうか?
 幸い生死は賭けているとはいえ、闘技場でなら降参する事も出来ます」

 理路整然とした説明は分かりやすく、また丁寧だった。
 元々セアルはこのメンバーでは冒険者として一番の古株である。
 ふざけた事を言う事も多いのだが、真面目に話されると思わず納得してしまう。
 
「そうだったの……ごめんね、嫌な態度とっちゃって。
 でも今回みたいにだまし討ちみたいな事は止めて。
 初めに説明してくれれば嫌だなんていわないんだから」
「それは本当に申し訳ありません。
 ほら、ご理解いただけたなら食べないと。明日戦えませんよ」
「うん! 食欲出てきた!」

 お互いに謝罪の笑みを交わし、和やかな空気が戻ってくる。
 食事を終え、セアルの薬草茶を飲みながら見張りの打ち合わせをしていると、
 ふと何かに気付いたように、ハーロが顔を上げた。

「そういえばセアル、最近は戦闘がゆるくて歌に出来ないとか
 ぼやいてたけどそれはどうなったんだ?」
「……?」

 サラがきょとんとした表情を浮かべる。
 あーあ、とでも言いたげにリックが顔を押さえた。

「さて、明日も早いでしょうしさっさと休みますか
 お疲れでしょうし女性のお二人は今日はゆっくり休んでいいですよ
 見張りはこちらでやりますしどうぞどうぞ…」

 セアルの妙に優しげな早口に押されるように、
 サラ達は少し離れた場所に作った今日の寝床に潜り込む。

「ねえ、もしかして私……思いっきりごまかされた?」
「さぁ、どうなんでしょう……?」

 サラの質問に、マリスは賢明にも何も答えなかった。


************************************


「ひょえぇ……でっかいなぁ」

 ハーロがおかしな声を発しながら上を見上げる。
 翌日。いよいよ本番に望んだサラ達を待っていたもの。
 
 ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

 鳴き声はコロシアムに響く人々の怒声を掻き消すほどに大きく、
 その巨体は一歩踏み出すごとに大地を揺るがす。

「な、何ですあれ?! あんなの見た事ないですよ!」
「マリス、落ち着いて深呼吸して。私も本でしか見た事ないけどあれは」

 灰色の巨体、大きな耳、そして何よりも特徴的な長い鼻。 
 フィリオンがポツリと呟いた。
 
「ゾウ……に似ているが」 
 
 果たして体長15mもあるゾウがこの世に存在するのだろうか?
 南蛮から取り寄せられたあの怪物の名前はチャーミンというらしい。
 名前の割に性格は荒々しいのか、血走った目でこちらを見据えている。
 あるいはそれは、上にまたがった熊のような大男の影響だろうか。
 レフェリーが声を張り上げて呼んだ名前は獣使いのバッハカ。
 彼の人気の高さを示すかのように、群集が大歓声を上げる。

「指示出してる奴をどうにか出来ればいいんだけど……難しいな」
「うん。あんな高い所にいるんじゃ、魔法の矢とかじゃないと攻撃できないわね」
「二人があいつにかかりっきりになるのは痛いな……」

 レフェリーの紹介の間にこっそり作戦会議としゃれ込むサラ達。

「あの……なんだか、あのバッハカさんの辺りから、懐かしい気配を感じるんです」
「懐かしい気配?」
「ええ。特に蒼の洞窟で感じる気配に近い気がして」
「あー……もしかして、水の精霊の気配?」
「かもしれません」

 サラ達の中に精霊を呼び出し操る事の出来る者はいないが、
 星の道標にも精霊使いの先輩がいるのでまったくの無知ではない。
 水の精霊の持つ力を思い出し、リックは溜息をついた。

「って事は回復も万全かよ……ま、あのでかぶつを集中攻撃した方がまだ早そうだ」
「ですねぇ」

 唐突に入った合いの手。
 音もなく近づいていた影に、一行はほっと一息つく。

「セアル……隅っこでなにやってたの?」
「ああ、役に立ちそうな鳥が飛んでいたのでちょっと」

 そういう彼の肩に、燕が止まっている。 

「なるほど。……ねえねえ、その歌であれは操れない?」

 サラが目の前の巨大ゾウを指差す。
 それを侮辱とでも受け止めたのか、ゾウが足を踏み鳴らした。

「無理無理。無茶言わないでくださいよ」
「残念。……ま、仕方ないよね」

 そう言いながら、サラが賢者の杖を握り締めた。そろそろ頃合だろう。
 紡がれた呪文に従い、魔力が仲間達の身に宿る。
 サラが唱えたのは【魔法の鎧】と呼ばれる防御魔法。
 相手からの被害をほぼ半分にしてしまうという、仲間を守る為の魔法だ。
 
 双方用意が出来たのを見計らってか、レフェリーの手が振り下ろされる。

「始め!」


************************************


 どういう魔法を使っているのか、開幕を告げる声がコロシアム中に響いた。
 サラはいつものように賢者の杖を握り締めた。
 集中し、己の内側にある魔力を魔法の形に整えようとする。

「避けろ!」

 その集中を邪魔する声。けれど一度深くに沈んだ意識は反応が鈍い。
 忠告の意味に気付いた時には、突撃してきたチャーミーはその両足を上げていた。
 踏み下ろされるゾウの足、その直撃は避けられても余波だけでサラの体が宙に舞う。
 背中を何処かに打ち付ける。地に落ちた体はなおもごろごろと転がる。
 途端に大きく湧き上がる歓声。いつものサラなら怒り狂っていただろう。
 しかし、その時にはもう、サラの意識はなかった。 

 開幕30秒にて―――サラ、戦闘不能。

「ささささ、サラさん?!」

 慌ててマリスが駆けつける。
 幸い、サラは擦り傷や打ち身が酷いもののまだ生きていた。
 大ダメージを受けたというより衝撃に気絶したのだろう。

「大丈夫です、生きてます!」

 心配しているだろう仲間に声をかけておく。
 他のメンバーは固い皮膚に武器を叩き付け、少しでも象を食い止めようとしている。
 中でもセアルが更に竪琴を奏でて呼んだ鳩が、
 象の目元をひらひら飛んで邪魔してくれているのだが、
 それを見ている余裕などマリスにはなかった。
 今の内にサラの意識を戻さなければ、象が駆け回った時に避けられない。
 
「主よ、どうかお力添えを……」

 祈りを込めてロザリオを握り締める。
 その手から溢れ出す癒しの力が魔術師の体を包み込んだ。


 
「ああもう、ちっとも削った気分にならねえよ!」 

 痺れる手を大剣から束の間離して、ハーロが悪態をつく。
 とはいえ、彼が憤るのも無理はない。
 飛び上がっても足にしか届かない絶望的な体格差。
 とにかくとにかく武器を叩き付けるものの、
 その皮膚は分厚すぎて有効打になっているのかちっとも分からない。
 おまけに。

「また回復されたか……」

 炎を上げる剣を片手に、珍しくフィリオンが舌打ちした。
 たった今、彼はチャーミンに切り傷と火傷を負わせたのだが、
 バッハカに宿った水霊がそれを片っ端から癒していく。
 多少痛がっているから全てを癒せた訳ではないのだろうが、 
 果たしてどれだけやればこの怪物が倒れるのか、そもそも倒せるのか、
 不安と諦めがさざなみのように広がる。
 と、チャーミンの動きが変わった。
 後ろ足を何度も地面にぶつけている。
 それはどこか馬がスタートを切る仕草に似ていて。
 危険だ、と冒険者の勘が警鐘を打ち鳴らす。
 
「散開してください!」

 セアルの言葉よりも先に体が動いた。
 高さ15mの生き物がコロシアム中を駆け抜けた! 
 怪物の体は避けられても、石つぶてが逃げ惑う人間達を襲う。

「無事ですか!?」
「……掠り傷だ」
「オレも!」
「私達も大丈夫です!」

 皆の言葉に互いに安堵はするも、打開策は見えない。
 渾身の一撃を幾度叩き付けてもなお立ち塞がる灰色の巨体。
 その姿がだんだん絶望そのものに見えてくる。

「ああもう、なんかないのかよ、策は!」
「いっそ……」

 棄権してしまえば、とセアルが口に出そうとした瞬間。

《主よ!》

 後方から飛んできた光り輝く矢がバッハカの腕を打ち抜く。
 時折武器を投げたりして攻撃してはいたものの、
 殆ど指示を出すばかりだった彼に、今日初めての傷がついた。

「マリスさん!」

 サラに付きっ切りだった筈のマリスが戦闘に戻ってきたという事、つまりは……。

「ごめんね、遅くなった!」

 賢者の杖にすがり、多少ふらついてはいるものの、サラが両の足で立っていた。
 集中を済ませていたのだろう、魔法の矢が更にバッハカを射抜く。

「今のうちに早く!」
「今のうち?」
「うん、皆でチャーミンを集中攻撃して!」

 訝しく思いながらも、リックは武器をチャーミンの足に向けた。
 先程までと同じように、赤い血が舞い上がり傷口が……塞がらない!

「精霊さん、どちらを癒していいのか迷ってるみたいね」

 召喚術は強力だが、効果の対象を選べないという欠点がある。
 勿論、それぞれの術や呼び出した対象、効果範囲にもよるのだが、
 基本的に召喚獣は敵か味方か、程度の区別しかつけていないのだ。
 つまり、一体の水の精霊の場合、近くに傷を負った仲間が二人いたならば、
 そのどちらか片方しか彼らは癒せないのだ。
 そして、召喚主から与えられた魔力を全て使うと、
 水の精霊は元の世界へと帰って行く。
 バッハカは再度水精を召喚しようとしたが、

 ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

 再度のおたけび……というよりも悲鳴をあげて、チャーミンは膝をつく。
 何せ、あの巨体である。足の傷口にかかる重量はとてつもないだろう。
 水精の癒しもなくなり、彼は己の体重を支えきれなくなったのだ。
 どんなに指示を出しても動こうとしないチャーミンに苛立ち、バッハカが飛び降りる。

 だが、獣を失った獣使いにどれほどの事が出来ようか。
 数合はもったものの、フィリオンがその武器を弾き飛ばし、首筋に剣を突きつけた。

「……どうする?」
「……降参する」
「だってさ、レフェリーさん」

 リックに促され、信じられないと目を見開いていたレフェリーは、はっと瞬きした。
 どのような結末でも、彼は職務を全うしなければならない。 

「勝者!【星の道標】の冒険者達!」

 オオオオオオォォォォォォ!

 そして、コロシアムを揺るがす本日一番の大歓声が沸きあがった。 


************************************
 

「はい、これが賞金の500SPです。
 機会があったらまたエランの人々を楽しませてくださいね」

 恐らくはにこやかに、頑丈な鎧姿の受付はセアルに賞金を差し出した。
 
「ありがとうございます」

 セアルの方もにこやかにその包みを受け取る。
 元々これの為に彼らは命を賭けたのだ。
 癒したとはいっても重傷を負ったサラの為に今日は宿を取ってある。
 仲間達も疲れの方が出てリック以外は休んでいた。
 彼にとってはこの状況は大変ありがたい。

「ちょっと、寄り道する所がありますから」

 一言告げて振り向きもせずにつかつか歩くセアルをリックは慌てて追いかける。
 セアルが向かった先は闘技場の裏だった。
 いつも人で溢れている場所だが、今はあまり人がいない。

「はいこれ。引き換えをお願いします」
「おや、大穴を当てているね。羨ましい限りだ」
「運が向いただけですよ」

 差し出されたのは袋一杯の金貨。
 先程の賞金の2倍ほどあるのではなかろうか。 

「なぁ、セアル。まさかそれって……」
「ああ、歌で貯めたお金をちょっと回しただけですよ。共有財産からは抜いてません。
 あ、でも言わないでくださいね、皆さんには。誤解されそうですし。
 ……今度、奢りますから」

 他のメンバーに比べて、リックなら話が分かる。
 それが分かっているから、彼も悪びれない。
 それにしても、とセアルは大きな溜息をついてみせる。
 顔の笑顔がその仕草を大いに裏切っているのだが。

「お金を稼ぐのって大変ですねぇ」
「……ま、それは間違っちゃいないけどな……」

 珍しくサラに同情しつつも、このしたたかさは見習うべきか悩むリックだった。


************************************

シナリオ名 :武闘都市エラン
製作者 :飛魚様
入手場所 :ギルド(作者様のページはこちら

賞金:+500SP
出費:3600SP
合計所持金:1909SP

入手スキルは以下の通り。
業火の一閃(冒険者の店奇跡堂)→フィリオン 
即席料理(写術都市スカラ)→リック 
魔法の鎧(交易都市リューン)→サラ

クーポン:一つ星の冒険者(0)

やっと書き終わったー!
とりあえず今回のテーマは戦闘描写の練習でした。
でも戦闘の所は早かったんですが、どうやってそこに持ち込むかにすごい悩みました。
サラ達ってあまりこういう戦闘ってしそうになかったので。
なお、エランに賭け事屋さんはありません、あくまであるかもしれないなーという想像です。
でも、エランはスキルとか豊富で綺麗なので、ぜひいってみてくださいね。
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