FC2ブログ
こちらはカードワースのリプレイっぽい書き物置き場です。
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | ∧top | under∨
夏風邪は馬鹿が引く 語り:セアル
2010-08-01 Sun 15:56
シナリオ名 :夏風邪は馬鹿が引く
製作者 :月香るな様
入手場所 :ギルド(作者様のページはこちら

 今日の目覚めは最悪だった。
 頭が割れるように痛むせいか、酷く悪い夢を見ていた気がする。
 無性に喉が渇いてベッドの傍に置いていた薬草茶に手を伸ばした。
 刹那。 
 落ちた。私の体が。ぶつかった竪琴が不協和音を奏でる。
 同室のリックが跳ね起きた。 

「なっ!? セアル? なんだ……ベッドから落ちたのかよ?」
「ぁっ……ぅ」

 全く、そんなに驚くなんて宿の中だからって気を抜きすぎですよ。
 そう言おうとした瞬間、喉に走る灼熱の痛み。

「ん? どうしたやけに顔色が……」 
「……ぅ……」

 視界に映るもの全てが歪む。 
 ふぅっと一つ息を吐く。まずは落ち着かねばなるまい。
 脇の下と首筋に手をやる。

 体温:高め。
 脈拍数:いつもより多い。
 症状:喉の痛み、発熱、頭痛。
  
(やれやれ、参りましたね)

 本当にやれやれだ。
 異常を察知したのだろう、慌てて仲間を呼びに行ったリックが視界に映る。
 そんなに慌てなくてもいいのに。

(これは、典型的な風邪の症状ではないですか)


************************************   
 
 
「……風邪で声が出ない……って」

(いや、そこでそんな辛そうに眉を潜めないでくださいよ、サラさん。
 たかが風邪じゃないですか)

 そう言えれば楽なのだが、声が出せないのはやはり不便なものだ。
 私とて、職業が職業なだけあって人一倍喉には気を使っている自信はある。
 だが、旅から旅を繰り返したこの2ヶ月が微妙に堪えていたのかもしれない。

(はぁ、もう年ですかね。私も)

 ぐらぐらと揺れる視界に溜息をつきながら、
 娘さんに差し出された温めた牛乳をぼんやりと眺める。
 とにかく食事を取って薬を飲まなければ、と思うのだが全く食欲がわかない。
 
「何だか調子狂うなぁ。今日は安静にしていないと駄目だよ」

 ハーロに珍しく優しい言葉をかけられた。
 次の歌はそういう懐の深さを強調する事にしますかねぇ。
 難民100人くらいの前で演説でもしてもらえばいいでしょうか……。

「オレ達にうつされたら困るし早く治ってもらわないとね」

 はいはい分かってます分かってます。
 とはいえ……視線が親父の傍にある張り紙に向かう。
 昨日の夕方舞い込んだもので居合わせた我々が受けてしまっていた。
 視線の意味に気付いたのだろう、サラは少し考え込み、一つ頷いた。

「大丈夫よ。私達で行ってくるから」  
「まあ、今なら下水道のネズミ退治くらい余裕だよな」
「はい。回復は任せてください。なので今はゆっくりと体を休めて下さいね」

 ネズミを甘く見すぎですよ、奴ら毒を持ってるんですから。
 内心でそう思っただけだが顔に出ていたのだろうか。
 ハーロに背中を叩かれた。

「大丈夫だって。ちゃんとお土産も買ってくるよ」 

 まあ、今は他に仲間もいることだし、平気だろう、多分。
 いつまでも保護者気取りでいる必要もない訳だし。
 それでも。

(ちょっと寂しい気がするのは人情って奴ですかね……)


************************************ 


 病人にいつもの日当たりの悪い部屋は養生に適さないと言う事で、
 2階にある娘さんの部屋を借りる事になった。
 言うだけあって少し視線を向けると、よく晴れた夏空の青が目にまぶしい。
 気遣いで小さく開けてある窓から、ほんの少し風が入ってきている。
 これで頭痛が治まれば詩の一つでも考えたい所なのだが……

(ま、無理ですね。今日は)

 自分で否定して頭を振り、その動きでまた頭を抱える。
 ほんの少し動かしただけで、この苦痛。
 大きく広がる青空から目を背け、きつく瞼を閉ざす。
 目の奥に白の混じった暗闇が広がる。
 けれど、同時に周囲の音へは過敏になる自分を笑う。
 性分というものは、どうにも捨てきれないらしい。 
 窓の外からかすかに聞こえてくる親父と娘の明るい話声。
 
「この間やってきた東国の旅人が『夏風邪は馬鹿が引く』という言葉を教えてくれたぞ」
「あらあら」

 そんな事を言いながら、二人で笑っている。

(困った話ですねぇ……)

 二人がこの話を出来るだけ広めないようにと心の中で祈る。
 元々その言葉は、冬に引いた風邪に夏になってから気が付くような輩に使うのだ。
 馬鹿はそれほど愚鈍である、と。
 声が戻ったら解説をしておくべきだろうか。
 うとうとと暗闇に引き込まれながら、私はその時の台詞を検討し始めていた。


************************************


 暫くして喉の渇きに目を覚ました。
 水分は切らさないようにしなければならない。
 ただでさえ熱と次第に暑くなってくるせいで汗を随分かいているわけだし。
 窓の下ではいつも宿の近くに店を出す露天商の子供が娘さんと話をしている。
 今日はハーロやシューヴ、サラやマリスといった遊び相手も出払っているせいか、
 遊び相手がいなくてつまらないらしい。 
 私も一度せがまれて、歌を歌ってみせたのをぼんやりと思い出す。
 娘さんが、今日は風邪引きさんがいるから静かにしてあげてね、と言うと
 夏風邪は馬鹿が引くんだ、とかえされてしまっていた。
 どれだけの人に広めたやら、全く迷惑な話だ。

「じゃ、お見舞いにこれあげるよ」

 そんな声から暫くして、階段がきしむ音がした。
 女子供にしか出来ない、どこまでも軽い足音だ。
 しかも冒険者が無意識に培ってしまう足音を殺す癖もない。
 だから、これは娘さんだろうと分析する。してしまう。
 まあ、さっきの台詞から何しに来るのかも推測はついているのだけれど。
 そして、その推測は間違っていなかった。

「お見舞いが届きましたよ」

 顔を出した娘さんはおかしそうに笑って皿を差し出した。
 露天商の子供に貰った風邪に効く妙薬だという…芋虫や蛙の串焼き。
 いつも思うのだが、あの露天商はこんな物を売って商売になるのだろうか?
 食べはしないがおいといてくれと身振りで伝えながらも首を傾げる。
 起こしてごめんなさいね、と言い残し、またぎしぎしと階下に降りていく足音。

(まあ、サラさん達もまだまだこんな足音ですけどね) 

 彼女達が予定より早く帰ってきたなら、まず階下から賑やかな声がするだろう。 
 まだ、太陽が上がりきってもいないこの時間。
 仲間達の苦労を思いながら、私はもう一度瞳を閉じた。


************************************


 昼になると、娘さんがお粥を持ってきてくれた。
 いらなくなった紙の裏側に震える手で文字を書き、
 空になった水差しとコップに水を持ってきてくれるよう頼む。
 そして、がさごそといつも持ち歩いている自分の薬箱から風邪薬を出した。
 自作だが効果のほどは折り紙つきだ。
 風邪が増える冬場には、親父からの依頼で多めに作る事もある。
 飲んでしまえば後は眠るだけだ。
 ただ、なかなか眠気は来てくれなかった。
 頭痛の緩和にローズマリーを使っているからだろうか?
 あれには眠気を覚ます効果があるから。
 次に作る時は代わりにもう少しラベンダーを混ぜたほうがいいかもしれない。

(自分で使ってみないと分からないものですね……)

 そんな事を考えながら、天井の涼やかな風を送るマジックアイテムを見つめる。
 これは確か、数年前の冒険者が、ツケの代わりに親父に渡したものだ。
 昔は酒場にあったのだが、喧嘩で壊れかけたので捨てたのだと思っていた。
 部屋一つくらいなら、これでも丁度いいようだ。 
 古代には、こういった生活を豊かにする品が沢山あったのだと言われている。
 まだ見ぬ遺跡には、そういったものが眠っているのかもしれない。
 そう言えば、今の仲間達とあってから未だに遺跡の探検はしていない。

(いや、そうでもないですね)

 リューンの下水道は古代の都市の機能を利用して作られている。
 それを考えれば、あそこも遺跡のようなものだ。
 探検をしている本人達はそうは思わないだろうけど。

(どうしてますかね……皆さんは……)

 流石に今更ネズミに遅れを取るとは思わないが、万が一ということもある。
 何せ、リューンの下水道には怪しい噂が絶えない。
 石化光線を出す変な魚を見ただの、いやそれは変なぶよぶよだの、
 奥には邪神クドラの隠し神殿があるだの、
 そうじゃなくて最近噂の盗賊団の住処に繋がっているだの……。
 考えはじめると、やはり不安になってしまう。
 仲間達も多少は動きがよくなってきたとはいえやはり経験不足だ。

(後で聞けばいい事です。皆さんに。そう、戻ってから)

 帰って来たらお土産話をねだればいい。
 今、弱気になるのは病だからだ。
 それが分かっているからきつく目を閉じる。
 待ち焦がれた眠りに手が届くまで……ずっと。


************************************


 今日何度目になるだろうか。
 目を開けると、窓から差し込む光は随分と傾いてしまっていた。

(夕方……夏は暮れるのが遅いから、もう結構な時間ですね)

 厄介な問題が起きていなければ、もうすぐ帰ってくるだろう。
 昨日聞いた話では冒険者なら失敗するほうがおかしいという位簡単だった。
 自分がいなくても問題なんてどこにもない筈だ。
 だというのに、こうして横になっていると、嫌なものが頭をもたげる。
 起き上がればじわじわと頭を締め付けるような痛みに呻く。
 水分が足らないせいだと水差しに手を伸ばした。
 倒した。  
 
「ぁぁ……」

 机からぽたぽたと滴り落ちていく水。

(娘さんに、謝らないといけませんね)

 夕焼けの色がしみる。赤い、赤い、血の雫のように。
 ……昔も、こうして仲間を待った事がある。
 こことは違う宿、こことは違う街、今とは違う名で
 笑いあい、喧嘩をし、勝利の美酒に酔った日々。
 二度と還らぬ人々をずっとずっと待っていた……。
 この夕日の下を、あの日の仲間達が歩いていてくれたなら。

「……ばかばかしい」
 
 痛む喉から掠れた声を出して呟いた。
 ああ……だから自分は夏風邪をひいたのか。
 ふと、そう思った。


************************************


「ただいまー!」
「ちょっと、ハーロ君、声が大きいですよ……」
「あ……寝てたんだっけ、ごめん」
「いえ……」
「よかった。声くらいは出せるようになったんだ?」

 いつの間にか階下が賑やかさを増していた。
 窓から見える月の高さに驚く。
 いつ寝付いたかは覚えていないがついつい熟睡してしまったようだ。

「さっきに比べると、随分顔色がましになったな」
「ちゃんと安静にしてたのがよかったんだね」

 そういわれて一つ頷く。
 実際、体調の方もそう悪くはない。特に頭痛が随分と治まっていた。
 喉の痛みが和らいだおかげで声も少しは出るようになったし、
 たっぷり汗をかいたためか熱が下がっているのが体感できる。

「それはよかった。あ、そうそう。お土産のほう、買って来たよ」

 熱がある時は熱を上げきったほうがいいと聞くからとリックからは本、
 マリスが効果抜群だと自信満々に差し出したのは小さな木の実、
 それに、下の露天商から風邪に効くといわれて買った怪しげな、見た事もない草の根っこ。
 随分色々買い込んだものだ。これでは依頼料など殆ど残っていないだろう。
 それらを机に積み上げて、仲間達はその日の依頼を語り始めた。
  


 暫くして夕食のいい匂いと共に彼らも去り、辺りを沈黙が支配した。

「……く」

 唇の端が歪む。
 駄目だ、これ以上は堪え切れない。
 ベッドに倒れこみながら、彼は笑った。
 喉の痛みに途中咳き込みながらもひたすら笑い続けた。
 多少落ち着いたとはいえ、まだ本調子という訳ではないのだ。
 けれど、笑いが止まらない。

(ああもう! まったく彼らときたら)

 怪しげなピンクの本。

(よくあの面子の前で……さぞかし殴られたでしょうねぇ)

 青と赤の小さな木の実。 

(これ、風邪じゃなくて疲れ目に効くんですよね。
 フィリオンは知ってたみたいですけど……)

 マンドラゴラによく似せた得体の知れない植物に至っては、
 どう考えても露天商にカモにされたとしか思えない。

(というかこれ、少し削った跡があるじゃないですか。
 泥を塗りつけて分からないようにしてますけど)

 どれもこれも、病人に送るにはデタラメなお土産だ。
 おかしい、面白すぎる。
  
(これは……せめてもう暫く見守らないといけませんねぇ)

 そうでなければもったいない。こんなおかしい奴らなのだし。
 次第に腕を上げてきている彼らだが、いつか遠い日に彼らの本当の話を歌おう。
 今のハーロの英雄譚よりこちらのほうが受けるかもしれない。
 馬鹿みたいな考えに心が躍る。いいのだ、今の私は馬鹿だから。
 明日にはこの夏風邪も治っているだろうから、それまでは。
 小さく笑って目を閉じる。
 今度の眠りは穏やかだった。 
 

************************************

シナリオ名 :夏風邪は馬鹿が引く
製作者 :月香るな様
入手場所 :ギルド(作者様のページはこちら
クーポン:夏風邪は馬鹿が引く(0) 夏の日のまどろみ(+1)セアルのみ

友達にセアルさんでやってみてとリクエストされまして、
試しにやってみたら幾つかシーンが浮かんできたので一気に書き上げてしまいました。
元が読み物系で大変楽しいシナリオとはいえ、いつもこんな風に浮かんでくれたらいいのになぁ。
そういえば、なんかセアルさんはファンが一番多いようです。
他のキャラとは一味違うのがいいのでしょうか?
ところで。
キャラ間クーポンの数字をここまであわせてきたのですが、
とうとうその法則が崩れました。
あわせるために一人用シナリオにでも突っ込むべきでしょうか。
ちょっと悩ましいです。
スポンサーサイト
別窓 | CWリプレイ風小説 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨
<<500人! | 宿屋【星の道標】 | 森林での死の接触 語り:ハーロ>>
コメント
∧top | under∨
コメントの投稿
 
 
 
 
 
 
  管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック
トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら
∧top | under∨
| 宿屋【星の道標】 |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。