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フロンティア(後編) 4
2012-01-31 Tue 01:17

「そうですか、ラグァ族が……」
「ええ。可能性は高いわ。だから、貴方にも避難して欲しいの」
 
  薄暗い部屋の中、二人の女性は囁くような声で言葉を交わす。
  教会に来たサラが真っ先にやった事は、ろうそくを消してもらう事だった。
  セアルの話では川の方から別働隊が来る事は大いにありうるらしい。
  その場合、彼らが狙うのは、あくまで不意打ちらしいから、
 その時、途中にある教会に明かりが灯されたままなら、
 来襲の情報が渡るのを嫌って彼らは真っ先にここを狙うだろう。
  
「ですが、それではここが無防備になります。
 私は、私の居場所を守らなくては……」
「だからって、自分自身を守らないでどうするの!」
「……ですが……私は布教もろくに出来なかった。
 セレシュを育てる事に必死で、何も……」
「そうかしら? 確かに今ある居場所を大切に思う気持ちは分かるわ。
 でも、貴方を慕う人達が、ここには貴方が思う以上にいるの。
 川でも少し話してくれたよね。
 ここじゃ、貴方の語る神様の言葉が届きにくいって。
 皆生きるのに必死だから、神様を信じる余裕がないって。
 でも、彼らだって神様や貴方を邪険にしてるわけじゃないのよ」
 
  教会の事を語る村人達は、いつだって彼女自身を認めていた。
  文字を知らぬ村人達に文字を教え、共にお菓子や裁縫を楽しむ。
  それは、信仰の布教としては慎ましいやり方であったかもしれないが、
 サルーンの女将を初めとした多くの人がクレイに感謝していたのを、
 サラはここに来て幾度も耳にしている。
  
「それにね、こういう時こそ、人は心の拠り所を求めるものよ。
 私が村長の家を守る予定だけど、私だけじゃ足りないの。
 大丈夫だって、信じさせてくれる何かを彼らは求めてる。
 だから、協力して欲しいの」
「それは……虚言になるのではないですか?」
「大丈夫よ」
  
  サラは楽しい秘密を打ち明けるように口元に指を当てた。
  
「私の仲間達が本当にしてくれるわ。皆、強いから」
 
  彼女の言葉に迷いがないのは仲間を心から信じているからだ。
  少なくとも、クレイの語る神の言葉よりもよほど力強い。
  黙り込むクレイに、サラは駄目押しのように言葉を続けた。 
  
「セレシュの帰る場所は、主のいない教会じゃない。
 母親代わりだった貴方のいる居場所でしょう?
 少なくともここなら、それが許されている。
 壊れたって作り直せるのが開拓地の強みだと私は思うわ」
「……私に出来るでしょうか?」
「ええ、きっとね。だから行きましょう、生き残る為に」 
 
  小さく頷かれて、サラは教会の扉に手をかける。
  その時、彼女の耳に闇の向こうから己の名を呼ぶ声が届いた。
 
「やっぱりまだここか」   
「リック」 
「狼煙が上がった。……奴等が来る」 
 
 
   ***   ***   ***   ***   *** 
 
 
  村長の家ではリックの知らせを聞いたマリスが、
 フィリオンの所に駆けつけようとしていた。
  幸いこの家は他の家よりもやや丈夫らしく、
 奥の部屋には戦えない老人や子供達が集められている。
  ここの護衛としては直にサラがシスタークレイを連れて駆けつける予定だ。
  マリスはサルーンにいた村人の補助と、
 敵が確実に来るまで皆の安定剤となる役目を引き受けていたのだが。
 
「ダメだよ、危ないんだよ」
 
  しかし、奥の部屋から飛び出してきたキャロラインは、
 幼子が母にするようにマリスの足に取り縋って泣いた。
  今の村の雰囲気では不安になるのも仕方ないのかも知れない。
   
「夜の狼煙はこわいの。あいつらに殺されちゃう。
 パパとママみたいに……だから行っちゃダメ!」
 
  マリスも村を巡ってる間に小耳に挟んだだけなのだが、 
 彼女の両親はラグァ族と友好を結ぶ事になっていたにも関わらず、
 だまし討ちにあって殺されたらしい。
  5年前との事だから、彼女はまだ四つにもなっていない筈だ。
  それでもその時の事を覚えていたのか、あるいは思い出してしまったのか。
  彼女の顔も、マリスの服の裾を握る手も、蒼白になって震えている。
  だから、マリスは彼女の手を両手で握り締めた。
  膝を折って視線を合わせ、胸の十字架に触れさせるように
 小さな体を引き寄せて、そのまま優しく微笑む。
 
「キャロラインさんは、私達の事弱いって思います?」
「でも……」
 
  確かに、良くも悪くも彼らは若かった。
  おかげで、数日徹夜しても平気な位には体力はあるが
 あまり頼りがいがあるとは思われにくい。
  そのせいもあっていつまでも新米気分が抜けないと、
 宿の親父にも最近は怒られてしまっている。
    
「でもね、私達って意外と強いんですよ。だから大丈夫です。
 キャロラインも、この村の事も、ちゃんと守りますからね」
「本当に? 皆かえってくる?」
「ええ。私が誰も死なせません。神様に誓ってもいいですよ」
「神様に……うそじゃない?」
「ええ。約束します」
 
  小さな指先同士が一度絡まる。
  そうして、マリスの体を離したキャロラインを、
 彼女の祖父は背中から抱きしめた。
  寒さから、あるいは孤独から守るかのように。
     
「じゃ、行ってきます!」
   
  そうして、マリスも夜の闇の中に飛び出していった。
  冷たく吹きぬける風の中、遠く、地を揺らす蹄の音が聞こえてくる。
  戦いの始まりは、もうすぐそこだ。
 
 
************************************
 
 
  小さな窓から入り込む月明かり。
  屋内を照らすのは、それとハーロの手元にあるカンテラだけだった。
  ……彼は今、襲撃者が最も狙うであろう場所の番をしている。
  ここは村の倉庫。
  つい先ほど、冒険者達が運んできた物資を搬入したばかりの場所だ。
  もしこの物資が奪われた場合、ここの人々はこの冬が越せなくなる。
  その場合、彼らが生き残る為には、かなりの距離を後退するしかなく、
  狼等の事を考えれば護衛を増やすか森まで開拓地を戻さなくてはならない。
  そこからここまで進むのにかなりの年月が掛かった、と聞けば、
 ハーロにも嫌でもこの倉庫の重要性が分かる。
   
(にしてもよく分かるよな、セアルの奴。馬車を襲ったのが罠だとか)  
 
  馬車を奪う事で村から護衛を誘い出し、その間に村を襲う。
  あの時、飛び出そうとしたハーロを止めたセアルが言い出したのは
 ハーロ自身うろ覚えだが確かそんな内容だった。
  そもそも馬を握っている原住民からセレシュが逃げ延びられたのも、
 護衛達に一大事を知らせる為の彼らの計略、だとか何とか。
 
(何で咄嗟に分かるんだよそんな事!)
 
  そして、それが正しかった事も証明された。
  村の外れでラグァ族の村の動向を探っていたリックが、
 彼らが合図として使う狼煙に似た煙を発見したと連絡があったのだ。 
 
(こんな真夜中にご馳走を……作ってるわけはないよね、流石に) 
     
  だからきっと、セアルの考えは正しいのだろう。
  これでもっとましな詩を作っていれば素直に尊敬できるのだが、
 どうして普段の言動はああなのか、ハーロにはまったく理解できない。
 
(ま、いいけどさ)
 
  ここを任されたのは単純にハーロが強いからだ。
  言われた通り倉庫の扉には鍵をかけてあるし、
  いらないと聞いた木箱や樽なども扉の前に山積みしている。
  出入り口となりうるのは、小さな明かりとりの窓一つきりだ。
  それでも……この扉が破られた時が、ハーロの出番なのだから。
 
(原住民だかなんか知らないけど……負けてたまるかっ!)
  
  凍える手に息を吹きかけながら、ハーロは心中で声を上げた。
 
  
   ***   ***   ***   ***   *** 


  その音を耳で捕らえて、フィリオンは静かに立ち上がった。
  足元に集中しなくても届くようになってきたそれは、
 馬の蹄が地を蹴る時に起こる強い振動。
  それをもっとも間近に感じ取れる場所である荒野と村との境、
 細い柵の前にフィリオンは立つ。
 
「フィリオン様!」 
 
  その背後からは心強い仲間の声。
  眼差しの先、地平線の向こうからは雄叫びが轟き始める。
  彼らの声はまるで肉食獣の咆哮だ。
  臆病者ならばそれを聞くだけで逃げるだろう何の意味もない喚声を、
 フィリオンは日頃の癖で翻訳しようとして、その行為に息を吐く。
  言葉を持たない民の言葉を、一体何処の言葉にすればいいというのか。
  その間にも馬蹄の響きは近づいてきた。
  いまやその場にいる全員に敵の姿が見える。
  ラグァ族の尖兵は片手に槍を握り締め、
 怒声を発しながら、フィリオンに向けて突進してきた。  
  避けたりすれば彼らはそのまま柵を飛び越え村へと入るだろう、しかし。
  
「越えさせはしない!」
 
  彼の意志を表すかのように、フィリオンの握る白刃が輝きを纏った。
  突撃をいなした彼を貫こうとラグァ族が突き出す槍の先を、 
 その剣は軽い抵抗で断ち切る。
  そして、動揺した相手が元の姿勢に戻る前に素早く懐に入り込むと、
 馬の手綱と胴体を浅く切り裂いた。
  痛みに馬がいななくのを切れた手綱では御す事が出来ず、
 ラグァ族の戦士は無様に振り落とされる。
  後の始末はリックに任せ、次の敵を見据えると、
 闇の向こうからは輝く剣を手に持つフィリオンに群がるかのように、
 幾つもの馬蹄の響きが響いてきた。  
  マリスから受けた【祝福】に心中で礼をし、フィリオンは剣を握り直す。
  フィリオンが見る限りここを攻めてくる相手の数自体はそれほど多くない。
  恐らくセアルの言っていた別働隊への不安が的中したからだろう。
  それはつまり、ハーロ達への負担がそれだけ大きいという事を意味している。
  しかし、今ここを放置するわけにも行かなかった。
  もしここを抜かれれば、大なり小なり村に被害が出る。
  土地の奪い合いをしている以上、必ずしも善良とは言えないかも知れないが、
 ここに残っている彼らの多くは戦えない人々なのだ。
  だからこそ、それだけは防がなければならない。
  ……こういう時彼は自覚する。 
  自分の本質はまだまだ騎士である事を捨てきれずにいるのだと。
  それでも、今は冒険者として親しくしてくれた人々を守りたかった。
 
 
   ***   ***   ***   ***   *** 
  
 
(私は、なんてミスを……)
 
  セアルはいつになく焦っていた。
  彼は、日頃滅多に取り乱す事はない。
  しかし、今の事態は彼の想像を超えていた。
  現在、サルーンにはマクビー達のようながんばれば戦えなくもない人間が、
 冒険者達の前線が破られた場合に備えて銃を手に待ち構えている筈だ。
  そして、まったく戦えない子供や老人は、立地的に一番安全な村長宅へ。
  こちらはサラが一人残って護衛についている。
  近づける道が他の家屋に比べて比較的限られている為、
 遠距離からの【眠りの雲】で一網打尽にしやすいのだ。
  そして、最前線である村外れはフィリオン達三人が守っている。   
  村の反対側に残ったセアルがするべきなのは、
 闇に隠れて大いなる河の方向から回りこんでくるであろう別働隊と
 倉庫前で対峙するであろうハーロを援護する事。
  倉庫の中にあるのは、彼ら先住民族には喉から手が出るほど貴重なものだ。
  狙わない筈がない……という見解が間違っていた。
  倉庫に辿り着いた彼らが真っ先にしたのは、その扉に閂をかける事だった。
  
(そうだ。彼らは先住民族……) 
 
  開拓村の人々によれば、牧畜も農業もラグァ族はやっていないそうだ。
  だから、彼らは知らない。
  小麦で出来るパンの味も、葡萄酒の芳醇な香りも、
 この荒野でも栽培できる芋の存在も、リューンで作られる傷薬の効能も。
  彼らは今のままでも必要最低限には満ち足りているからだ。
  そして、知らないけれど、ここが開拓者達の生命線である事は、
 これまでの襲撃で理解していた。
  倉庫の周りに燃えやすい枯れ草が山のように積まれる。
  恐らく牧場から奪ってきた馬や牛の餌だろう。 
  勿論他より丈夫な構造をしたこの建物が簡単に燃えるとは思えないが、
 荒野の空気は冬なのもあってか乾ききっているし、
 消火の為の水も、川まで行かなければ手に入らない。
  もし万が一が起きた場合……建物は、中の人間は、耐えうるか。
  しかし、考えている間はもうなかった。
  隠密性を重視してか、これまで使ってこなかった松明に
 今火が灯されようとしている。
   
  その瞬間、セアルの絶唱が荒野にまで響いた。
 

続く
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