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こちらはカードワースのリプレイっぽい書き物置き場です。
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祈りしもの 3
2013-08-04 Sun 23:52
  そして、一行がその日の仕事を終え立ち去ろうとしていた時、
 夕闇迫る街角で出会ったのが、あの不気味な死神だった。
  全力で走って振り切ったとは思うものの、
 野営中の来襲も考慮してとにかく町から大きく距離をとる。
 「ここ、まで、来れば……」
 
  ぜいぜいと息を切らした一行がその足を止めたのは最初に町を眺めた丘の上。
  既に辺りは真っ暗で、大気は真冬に戻ったかのように寒い。
  しかし、その寒さも先ほどのレイスと直面していた時に感じたものに比べれば、 
 むしろ生温いようにすら思えた。   
  慌しく灯された松明やランタンの光の中、てきぱきと野営の準備が進む。
  幸いと言えるのは通り道に小さな森があった事だろう。
  春先とは思えぬこの寒さも薪を余分に使えば少しは和らいだ。
  そうして、リックが作った暖かなスープを口に運びながらも、
 話はアクートのレイスから離れない。
   
 「あれ、やばすぎるわよ」
 
  サラがスープを吐息で冷ましながら言う。
 
 「やばいって何がだよ。強いのは何となく分かったけど」
 「気のせいかもしれないけど……底知れない魔力を感じたのよ」
 「何それ? サラ姉ちゃん」
 「うーん……。術で見抜いたわけじゃないから
  そこまでよく分からないけど、あえて言えば怨念っていうか……」
 
  そう言って彼女はスープを飲み干した。
  香辛料を多めに入れてあるのか、体がホカホカしてくる。

 「怨念、ですか。確かにすごく怖かったです。あれ……」
 
  マリスが体を震わせ、温めた葡萄酒を口に含む。
  酩酊からは程遠いアルコール量だが体は温まるので、
  酒に弱いサラと未成年のハーロ以外はそちらを飲んでいた。
 
 「ともかく……あの手合いは相当厄介よ。
  普通のアンデッドモンスターだとは思えないわ」
 「じゃあ、やはり術者が悪さをするのが目的なんでしょうか?」
 
  当初推測された一番危険なパターンを、マリスは口にする。
 
 「どうかな……術者に操られているなら、幽霊達はもっと暴れてるんじゃないか?」
 「そういえばあのレイス以外はどの方も優しそうな方でしたね」  
 「そもそもあの人達に怨念なんてあるのかな?」

  そう、このアクートで出会った神父や住人達の誰一人として、
 自分を殺した者への恨み言を言っていない。
  死に様の悲惨さを歴史として知っているサラ達には、いっそ不自然にすら思える。
 
 「んー……安直過ぎるかもしれないけど、
  彼らの怨念がレイスに取り込まれてるんじゃないかしら?
  そう考えればレイスの力が強すぎるのにも説明がつくわ」
 
  うんうん、と自信ありげに頷くサラ。
 
 「……しかし、だとすれば妙だ」
 
  そこで、寡黙な青年が珍しく口を挟む。
 
 「そうかな? どこが妙なのさ、フィリオン兄ちゃん」
 「教会によれば、レイスは罪人のなれの果てという事になっている」
 「はい。あまりに罪が重いとレイスとなって地上に縛られてしまうのです」
 「殺された者の怨念がレイスを強化するのなら、それは殺された側に属している」
 
  そこまで言われれば、気付く者は気付く。
 
 「あ、誰が罪を犯したのか……か。この町で考えるなら、攻め込んだ側だろうけど」
 「攻め込んだ相手を滅ぼされた人々の怨念が強化する訳ないってことか」
 
  サラの言葉を引き継ぐようにリックが頷いた。
  しかし、とセアルはその言葉に首を振る。
 
 「つまり虐殺の時に偶然大罪人が紛れ込んでいたという事ですか?
  この時期はよくアクート絡みの詩歌を頼まれますが、
 そんな話は聞いた事がないですよ。
  そもそもアクートの占領自体は数年前から行われていた。
  前線への輸送の拠点として扱われてきたから、
 その間は東の兵士と限られた商人しか町に入れなかった筈ですよ。
  万が一毒を混ぜられたり物資が奪われれば大損害になりますからね」

  セアルの考察にハーロが苛立ったように口を挟む。 

 「じゃあ何なのさ。誰も知らないんなら正体なんて突き止めようがないじゃん」
 「ですね。そもそも今考えるべきはレイスへの対処ですから」
 
  詩人はあっさりと考察を放棄し、周囲に回答を促す。
 
 「怨念への対処は……現状維持だな」
 「そうね。明日も今日みたいな事を繰り返すしかないんじゃないかな?
  少なくとも今日解放した人達の分は、レイスも弱まっていたはずよ」
 「弱まってあれかよ……やれやれ」
 「ぼやかないぼやかない」
 
  と、サラとリックがいつも通りの会話を続ける中、
 ふと視線を逸らしたフィリオンはどこか上の空のマリスに気付いた。
  薪を握った手元を見、火元を見、空を見上げてため息をついている。
  暫く様子を見ているとようやくこちらに気付いたらしく、
 薪を放り出して目をぱちくりしている。青褪めていた頬が少し赤くなった。
 
 「……」
 「ふぃ、フィリオン様?」
 「浮かない顔だが……」
 「あ、なんでもないです。はい」
 
  それを横目に入れながらも、セアルは皆が言いづらい事を口にする。
 
 「明日がんばっても我々に対処できるレベルになるとは限らないですよ。
  今のうちに引き上げるのも一つの手だと思いますが」
 
  その言葉に、全員の注目がサラに集まる。
  慌てたようにサラは抱えていたスープの器を下ろした。
 
 「まあ……それは、そうなんだけどねぇ」
 
  彼女は術に集中するかのように瞳を閉ざし、傍らの杖を握る。
  その手は何度か握っては開かれ、彼女が逡巡しているのを暗に知らせていた。
 
 「うん、やっぱり駄目ね。今の段階じゃ引けない」
 
  勿論サラ達はどの依頼とて常に最善を尽くしているが、
 今回は特に教会という大口のコネが掛かっている。
  今の星の道標の状態でこれを失うのはあまりにもったいない。  
 
 「もちろん命のほうが大事だから、その時ははっきり言うね」
 
  少し自信なさげに、悪く言えば頼りなさそうに言うサラに、ハーロが笑いかけた。
    
 「名声を稼ぐって、楽じゃないよね」 
 「やはり私が歌って稼ぐしか」
 「それがそもそもの原因だろ!」

  ハーロのツッコミがセアルを捉え、一同に笑いがこぼれた。
 
 
   
************************************
 
 
 
  その夜。マリスは眠れなかった。
  祈りで神経を使うから、と見張りからは省かれているのだが、
 いつにない重圧に神経が高ぶっているのかもしれない。
  マリスの身じろぎに傍で眠っていた狼のジャックがそっと目を開ける。
  暖かな毛並みを軽く撫で、隣で眠るサラに自分の毛布を掛けると
 彼女は起き上がり一つ伸びをした。
  見上げた先の空には変わらぬ暗い色の雲がかかっている。
  星一つどころか月すら見えていない。
  雲に出来た明暗に、多分あの辺りだろうと推測出来る程度だ。
  それがまた彼女の心を暗くする。
  ……この雲の集まりが負の魔力による干渉ならば、
 それはそれだけ彼女の相手が強大である事を意味する。
  今日一日、ここまでは幸い順調だったが、
  例えばこれまでに出会ったあの牧師や老人、そして恋人達の霊が、
 マリスが祈るのに失敗したせいで苦しんだり敵対感情を向けてきていたら?
  自分達は聖水や術で彼らを消していたかもしれない。
  亡霊達があんな安らいだ顔が出来るとは知らずに。
  ましてや明日の相手には……多分あのレイスも含まれるのだ。
  感情のままに飛び出した溜息は冷たい空気に触れ小さな雲を地上に作る。
 
 「……起きたのか?」
 
  いつから見られていたのだろう?
  焚き火の炎の向こうにあった想い人の姿に、
 慌てたマリスは少しだけ寝乱れた髪をこっそり手櫛で直した。
 
 「はい。フィリオン様も眠れないのですか?」
 「……見ての通り火の番だ」
 「そ、そうですよね。見張りですよね」
 
  起きたのなら、と手招きされて熱い茶を渡されて、
 近づいた距離にさっきまでとは違う意味で心が躍る。
 
 「少し起きていようと思うので変わりましょうか? お疲れでは」
 
  それを自分から崩すような言葉に歯噛みする。
  今の言葉もまごう事なき本音のはずなのに、応じないで欲しいと願う。
  
 「……寝なくて平気なのか?」
 「はい。疲れたりってあんまりしてないんですよ。
  術を使う訳じゃないからでしょうね」
 
  だから全然平気、と続けようとしたマリスをフィリオンは遮る。
 
 「……顔色が悪い」
   
  南の島育ちだからか、マリスの肌はリューンの者に比べて少し濃い色だ。
  それゆえに他の者より分かりにくいが、今の彼女は日頃より少し青褪めている。  
 
 「別にどこも悪くは」
 「レイスの対応を話していた時もそうだったな」
 
  それを指摘されるとマリスは項垂れてしまった。
  天使が通り過ぎるほどの沈黙が、二人の間を流れる。
  暫くして観念したかのようにマリスは呟いた。
 
 「……思い出すと怖くなるんです」
 
  子供っぽくてすいません、と娘は儚く笑う。
 
 「アンデッドが苦手なのか?」
 「アンデッドというか……気配の強いのが苦手というか……」
 
  マリスには生まれつき不安定だが潜在的な精霊使いの素質があった。
  勿論きちんと精霊宮に勤めている者ほどの力はないのだが、
 レイス等が放つ邪気のような気配には怖気が先に出るのだ。
  そしてマリスは、言わないでおこうと思っていた一言を口にしてしまった。
 
 「あれを……あれを鎮めるなんて今の私には無理です」 
 
  ぽつりとそれを口にしてからその事に気付いてマリスは顔色をなくした。 
  皆の考えが『怨念を更に弱体化させてから祈りを試す』だったから
 まだやれると自分を励ましていたが、正直言えばマリスの心は既に折れていた。
  同じくあれと対峙した仲間達がまだがんばれると思うのが心の底から羨ましい。 
  幻滅させてしまっただろうかと脅えながらも横目でフィリオンの様子を探る。
  彼は暫く無言で、焚き火に小枝を投げ入れていた。
  夜の帳の中でぱらりと赤い火の粉が踊る。
  もしかしたら聞こえていなかったのだろうかと安堵しかけたその時、
 フィリオンはようやく言葉を発した。
 
 「……それは、傲慢だと思うが」
 「傲慢、ですか?」
 「彼らを救うのは君ではなく神だろう?
  君はただ神に彼らの存在を教えればいい。
  亡霊達の魂が救われるに値すると神が思われたならば、神は其を救うだろう。
  そこに君の力など介在していない」
 
  それはこの寡黙な青年にしてはやや長い台詞だった。
  中身の方も結構乱暴だ。
  現実には祈ってもどうしようもない時もある事はお互いに知っている。
  
 「随分と極論ですね……なんだか意外です」
 
  だが、それはマリスの為の言葉だ。
  失敗しても彼女に責任はないと言ってくれている。
  その気持ちが、気弱になっていた娘にはとても喜ばしい。
 
 「それに、だ」
 
  と、フィリオンは眠っている仲間達の方に首を向けた。
 
 「私達が怪我したら、君は癒してくれるだろう?」
 「はい」
 「何かに苦戦してたら手を貸してくれるな?」
 
  意味が分からない質問の流れだが、素直に彼女は頷いた。
  そんなのは当たり前の事だからだ。
 
 「勿論です」
 「つまり、それと同じ事を私達も……私もするだろう」  
  
  そう言って見張りも交代の時間だ、と彼は仲間を起こしに行く。 
  焚き火の傍に残されたマリスは暫く動かなかった。
  助けてくれると言ってくれたのが嬉しかったから、というのも勿論ある。
  しかし、それより何より。
 
 (今のフィリオン様って、なんか頬赤かったですよね……?)
  
  焚き火の明りに照らされていたから、だろうか?
  いや、でももしかして。ひょっとして……自分の言った台詞に照れた?
  それは仲間の中で一番付き合いの長いマリスから見ても珍しい事で、
 おまけに今の台詞は紛れもなく彼女だけにプレゼントされたわけで……。

 (新たな魅力、発見です!)
  
  燃えるマリスの心からは自分の実力への不安なんて吹っ飛んでいた。
  恋する乙女なんてものは意外とタフなものなのだ。
    
 
続く》  
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